√セッテン

ライブハウスなんかより、少し手を加えて喫茶店にでもした方がよさそうな空間だ。

足元でパリン、とガラスを踏む音がする。

見上げると丁度、敦子が割った窓が見えた。

浅い呼吸のまま、スタッフ通路を進む。

突き当たりのドアノブを霧島悠太が捻る。

ここのドアは、簡単に開いた。

先行する霧島悠太に続いて進む。堀口俊彦がガムテープを巻いてドアを固定した。

「……」

眉を潜める。

敦子も辛そうな顔をした。

硫黄……いや、もっと喉の奥を刺激するような、異臭。

霧島悠太の顔は伺えないが、同じような顔をしたに違いない。

スタッフ通路を抜けたフロアはエントランスで、左手奥には、俺たちがアムリタに入ってきたときに開けようとした大きな黒いドアが見えた。

手前には小さなチケットカウンター

手元の懐中電灯でエントランスをぐるりと照らす。

頭痛がした。

異臭が痛めた頭を刺激したのか、一瞬頭が真っ白になる。

目を細めると、懐中電灯で照らした先に、白いものが写った。

ドキっとして、もう一度ちゃんと照らし直す。

それは白いソファーだった。

「…………」

霧島悠太は広いエントランスを横切って、入り口の黒いドアを弄った。

「……潤」

肩に敦子の手が乗る。

何? と返事すると、敦子は俺が懐中電灯で照らしたソファを指さす。

「あれ、死の待ち受けに出てたよね」

「……同じだな」

ゆっくりとソファーへ近づく。

白くて、丸みのある皮張りのソファーは、痛みはなかったがホコリが積もっていた。