√セッテン

ガムテープと工具セットを持ってきて、袋の口を結んでねらいを定めて空へと放り投げた。

半円を描いて屋根へと着地する。

ぶつからなかったか、と聞くと、余裕で避けたと敦子が元気に返答する。

「犯罪だな、こんなことしてるのがバレたら内定とれてもパーだ」

堀口俊彦が、苦笑する。

霧島悠太も誘われるように笑った。

「僕はクビだね、取材許可も貰ってないのに、挙げ句器物破損だし」

バリン、バリンと上ではガラスの割れる音が響く。

「開いた、これから降りるよ。てかちょっと怖いんだけどー」

敦子の独り言の後、しばらく辺りはシン、となった。

冗談を言っていた2人も会話を止めて、じっとスタッフ入り口を見つめている。

心臓がうるさく音をたてる。


ガチャッ


こうなることを予測していたというのに、ビクっとしてドアを凝視する。


ガチャガチャ、ガンッ


最後に1回大きな音がして、ドアが開いた。

転がるようにして飛び出てきた敦子を抱き留める。

「大丈夫か? 」

「さすがにちょっと、スリリングだったかな。でも私が行って正解だったよ。窓狭いから潤とか堀口さんとかは絶対入れなかったよ」

敦子はそこまで言って、咳をした。

大げさとも思える咳を受け、俺は敦子を覗き込んだ。

「それと、中ちょっとヤバイよ」

「え?」

「締め切りじゃん? だから臭いっ」

クサイ?

頭のなかでギリシア文字が浮かんで、消えた。

「異臭ってことか」

「空気籠もってたワケだしな。暫くここを開けて、空気を入れ替えてから中に入ろう」

堀口俊彦は、スタッフ用出入り口を限界まで開けて、その前に立った。

霧島悠太は周囲にうち捨てられていた自転車を起こして引っ張り出してドアを止めた。