「あのさ、霧島さん」

敦子は声を上げて霧島悠太に声をかけた。

彼は歩きながら、視線だけ投げてきた。

「霧島さんは、蔵持七海のどこが好きなの?」

なぜそんな話をしだしたのかは分からなかったが

とりあえず場の暑苦しい雰囲気をどうにかしたかったのだろう、敦子は言って急かした。

「聞いて、どうするんだい? 君が聞いてもいいことなんて何もないよ」

霧島悠太の言葉は、理にかなっていた。

敦子は蔵持七海を恨んでいる。

霧島悠太は逆の感情で今も、蔵持七海を追っているんだ。

敦子が聞いて、良いことなど1つもない。

「彼女を好きだっていう人の話を聞けば、少しは許せるかと思ったから」

敦子はケータイをぎゅっと握りしめて続けた。

「ねぇ、どこが好きなの」

「そうだね、純粋で……とても繊細で、美しかった」

敦子は少しだけ、難しい顔をした。

「七海と会えば分かるよ……彼女は、孤高で、それでいて儚くて、気高かった」

「ベタ惚れじゃん」

敦子の言葉に、紫煙を吐きながら霧島悠太は笑った。

「ベタ惚れだよ。その通りだね。彼女のガラスのような心の、支えになりたかった。なれないのは、ずっと昔から、分かっていたことだったんだけどね」

霧島悠太の苦笑がひどく空しい。

「吉沢アヤト、死んだ人をどうこう言うのは間違えているけど、彼女を愛せる、その立場が羨ましいね」

「……でも、彼、死の待ち受けで死んだんですよね」

敦子の言葉の意味は全員分かった。

蔵持七海が殺したと言いたいのだろう。

でも、霧島悠太は信じてる。

蔵持七海は、人を殺したりしないと。