「まぁ、敦子もいるし、その方がいいですね」

「1件目はこの先……新北宮グランデビルの地下だよ」

歩きながら、空を見上げる。

病院で蔵持七海を照らしていた月と同じ色、同じ形の月が、薄い雲を纏って輝いていた。

「空がどうかした?」

「いいや……ただ、キレイだなって」

そう答えると、「キレイ」という言葉に反応したのか

敦子は何かを思い出したように目を細めた。

「そういえば潤、蔵持さんのこと……」

「閉まってますね」

グランデビルの地下へと続く階段を覗き、堀口俊彦が言った。

「うそ、今日休み?」

俺に何か言いかけていたが

敦子がすっとんきょうな声を上げて、堀口俊彦の方を見た。

「みたいだな。明日……いや、もう今日か。今日の夕方6時にはOPENだ」

「こじ開けちゃったりできない?」

「できるわけないだろ」

「そうだね、黒沢くんの意見に賛成かな。警報が鳴っても困る。昼過ぎに来ればスタッフがいるだろうから……ココは次に回そう」

霧島悠太は言って重いため息をした。

「次は?」

「アムリタっていう潰れたライブハウス。ちょっと外れだけど歩けるし、このまま行こう」

歩きながら、霧島悠太は、歩き煙草いい? と俺たちに断りを入れた。

敦子は嫌そうな顔をしたが、霧島悠太の気持ちも分かってか、「いいよ」と一言返した。

堀口俊彦は、ポケットからライターを出して火を灯した。

霧島悠太はその火を借りて、紫煙を吐く。

敦子が、なんで火なんか持ってるのと、小さく堀口俊彦に呟いた。

だが答えは返ってこなかった。