思い詰めたような色素の薄い瞳が、現実を拒否したいと訴えていた。

「うそ、じゃあ千恵大丈夫なの?」

「河田に頼んだ。もちろん死なせないよ」

「……よかった、びっくりした……もぅ」

「山岡、蔵持に襲われた時、自分のケータイに発信したんだ」

遠くで波の音がする。

「自分に……」

堀口俊彦が感嘆するような、小さな呟きを漏らした。

それがどういう作用をもたらすのか、堀口俊彦は理解したんだろう。

「敦子」

「何? 」

「絶対助ける」

「……うん。でも、安心してよ。私だって千恵みたいに考えてるから。死の待ち受けをこれ以上まき散らさないようにする方法……でもさ、千恵の方法は千恵らしいよ……」

「飯島さんの案は、どんな方法なんだい? 」

霧島悠太が言って、トン、と地図を纏めた。

「霧島さんが聞いたら、怒るの分かってて言うよ」

敦子は、蔵持七海の顔が浮かんだ自分のケータイをにらんでから、霧島悠太を見た。


「私、霧島さんから蔵持七海の電番を聞き出して、最後の最後は蔵持七海にコールしてやるつもり。呪いをはじめた彼女に、たたき返してやるつもりよ」


敦子は大きな黒い目を鋭くしならせる。


「どれだけ辛いことか、はじめたのが彼女なら、そのくらい覚悟してるはずでしょ」


霧島悠太は、微動だにしなかった。

敦子の言葉の鋭さが、霧島悠太を戒めているのではなさそうだったが。

「発狂したとしても、蔵持七海に発信する、そのことは忘れない。死ぬ前に大切な人の声は聞きたいけど、それ以上に私は、大切な人は守りたい」


霧島悠太の気持ちも分るのか、敦子は視線を少し下げて下唇を噛んだ。

「私は潤を守ってみせる。私は負けないんだから。……先に下、行ってる」

敦子が言って俺の隣をすり抜けていく。

堀口俊彦が1人になるなよ、と後をすぐ追った。