「そ、それ……返して……」

山岡は蔵持七海の手に捕らわれた定期券を見つめた。

俺はドアから離れて、受付カウンタ下にあった消火器を掴みあげる。

山岡が病院側の自動ドアでなく、外の方にいるならまだ大丈夫だろう。

思いきり消火器を自動ドアへと投げつけた。


ガツン、と厚い音がして蜘蛛の巣のようなヒビがガラスに走る。


だが、割れない。

急いで次の手に移る。


「それを返して!!!」


カウンターに走り込んで中にある内線を掴む。

緊急患者用の電話内線がある。

急いでプッシュして、コールを待つ。


コールが2回


だが次のコールを待つ前に、入り口で鈍い音がした。

蔵持七海の手から定期を取り返そうと飛びかかった山岡が、はじき返されていた。

反射的に振り返り、受話器を放り投げて舞い戻る。

「山岡!!」

先ほど投げた消火器をもう一度掴む。

「蔵持、もうやめてくれ!!」

消火器を投げつけると、大きなヒビが入る。

「山岡!!」

「じゅ……ん」

山岡の声が聞こえた。

蔵持七海も、やっと俺を見た。

大きく開いたガラスの瞳が、俺を見つめていた。