しかも蔵持七海には

俺は一度も会ったことがない。


ただ

一度、ライブ映像を見ただけなのに。


「誰か分かる?」

明瞭な声

少しハウリングしている。

音響設備など、死んでるはずだ。

だがその声は

あまりにも透き通っていて

苦しいけど、息を飲んだ。


「分かるでしょ?」


微笑みというには、毒があるようにも思えた。

崩れるようにしてステージからフロアに落ちた俺が肩越しで蔵持七海を見る。

息ができない。

頬に、砂利が擦れるような、土の感触。

「たどり着ければ」

蔵持七海の唇が、柔らかく上下する。

歌ってる。

どこにだ

お前のところにだろ?

行くから

待ってろって……


「七海……」


蔵持七海に俺の声なんて聞こえない

だって目は、一度も俺を見てない。これは夢だから、当たり前だ。