√セッテン

堀口俊彦と別れ、霧島悠太と歩き出す。

俺より頭2つは高い長身の霧島悠太は、まっすぐ前を見つめていて、一緒に途中まで、と言ったくせに何も話を振ってはこなかった。


「地図が苦手ってウソですよね」

黙ったままでも良かったのだが、何か裏があるのではと気になっていた事を聞いた。

「うん、途中まで君と話をしたかっただけだ」

「……何ですか?」

「さっきの話、好き、嫌いの話さ」

「蔵持七海が吉沢アヤトを好きで、池谷美保もって話ですか」

「そう、僕は数日間だけだけど、彼らと接触していて、池谷美保の思いは分らなかったけれど、吉沢アヤト……彼の気持ちは、言われてみれば理解できる」

「捜索、手伝ってくれていたそうですしね」

「そう。彼が七海を好きになるというのは理解できる。僕だって七海を愛しているし。七海は美人だし」

でも、と霧島悠太は一拍置いた。

「まさか七海も彼を好きだったとは思わなかったけれど。恋って盲目だっていうのは当を得てると思うよ。僕は七海のことに必死で、周囲の感情の流れなんて重視してなかった」

「あなたが蔵持七海を好きだったのなら、しょうがないんじゃないですか」

自分が好きな相手に他にも同じような思いを向けている人間がいる。

敦子、曰く、頭で理解できても実際問題、好きな相手のことにいっぱいいっぱいで、他人なんてどうでもよくなるもの……らしい。

だから山岡を簡単に傷つけられたし、ケンカもできたとそう言っていた。
「それだけあなたが、蔵持七海にまっすぐだってことですよ」

俺は何も考えずにそう言って、地図を見た。

前のT字路で俺と霧島悠太は別れる。


「ちゃんと蔵持七海に届きますよ。だから探して、死の待ち受けを早く止めましょう」

霧島悠太はサングラス越しに、にっこりと微笑んだ。

小さなえくぼが頬に出来て、それから「ありがとう」と礼と引き替えに彼はT字路の向こうに姿を消した。