『すっごい可愛がってる犬がいるとすんじゃん?』

池谷美保のメール文面が頭の中に浮かんだ。

犬とは、蔵持七海のことか。

『ずーっと自分が育ててたんだけど、急に犬が自分からどっか行っちゃって……』

可愛がっていたのに、裏切った。

池谷美保は、異常なまでに執着心がある女だ。

モノはいつまでも、自分のモノだと信じ思いこむタイプ

だから逆に、仲間への愛情は人一倍強い。

『超可愛がってたのに、もぅ大人になったから、あんたいりません、みたいなの、ぁたしありえないと思う』

だから、裏切られたと思ったら


許せない

理解できない


……歪んだ愛情だな


「問題は、その吉沢アヤトを巡ってのトラブルが実際あったか、なかったか、だな」

俺たちは店を出て、冷えた体をぬるい空気で包んだ。

夏の湿気にはいつも調子が狂う。

同じ日差しの強さでも、南仏に行けば湿気がなくカラっとして過ごしやすいというのに

日本はまるで空気中の水蒸気に抱きつかれたみたいだ。

「ただ、事実はこうです。蔵持七海は行方不明、池谷美保と吉沢アヤトは死んでる」

「俺にはトラブルがあったとしか思えないね」

堀口俊彦の反応は健全だと思う。

堀口俊彦には、どちらにも肩を持つ理由がない。

個人的な思いもあるだろうが、客観的な反応が期待できる。

「問題のメールが景のケータイに受信されていたのが、蔵持が行方不明になる前。池谷が景と相談を重ねて、挙げ句、蔵持と激突した可能性はかなり高い」

「だから、霧島さんが蔵持七海を捜す手助けをしなかったのかもしれませんね」

周りが困る、と自分で理解していても。

大切な試験があると分っていても。

死の待ち受けが表示されて

恋だとか 好きだとか

それどころじゃないと理解してても。

我慢できない

知らなければ収まらない

敦子と山岡も、そんな気持ちを抱えて激突した。