生きようとする意思が、死への恐怖で間違えた方向に曲がる。

俺の想像ではそこまでしか思いつかなかった。


ぼんやりと考えていると、バス正面の電光掲示板が、立幸館前を表示した。

通学路は、学生も少ない。

そうだ、立幸館はもう、夏休みか。

バスを降りると、またむっとする夏の熱気が体を包む。

校門前まで歩くと、大きなイチョウの木に出迎えられた。

私立らしい、アールデコ建築を模した大きな正門の奥は、まっすぐと校舎へ伸びる道に沿って、手入れのされた対照庭園のようだ。

部活帰りだろうか、正門を潜ってきた女子が俺をチラと見て横断歩道を渡っていく。

こんな時間に、こんなとこに二条西の学生がいるのが、珍しいのだろう。


「黒沢!」

声を掛けられて、振り返る。

堀口俊彦だった。

「黒沢、試験おつかれ」

「今日は最終日ですから、残りの詰め合わせみたいなものです」

「簡単に言うな。 に、しても……蔵持、今日……見つかるといいな」

堀口俊彦は言ってケータイを握りしめた。

堀口俊彦の死の待ち受けは、敦子と同じ日をカウントしている。

だが敦子よりも早くカウントが終わるはず。

山岡の次に危険なのは、堀口俊彦だ。

「霧島さん、ちょっと遅れるらしいから、そこのサ店入って待とう。大ニュースもお披露目したいとこだ」

「大ニュース?」

「あぁ」

喫茶店に入り、オレンジジュースとサラダセットを頼み、堀口俊彦の話を即した。