「もー潤が構ってくれないんだったら、お風呂行ってこよう!」

「あ、締め切ったりするなよ!」

「はーい。でも、覗かないでよ? 覗いたら襲うよ?」

普通逆だろうが。

ため息をして手を振ると、敦子は浴室へと消えていく。

ドアが閉まる音がしなかったのを確認して、改めて手元のノートを見た。


ライブビデオに投影されていた蔵持七海の、ガラスの瞳の残像が

頭の中で細くしなる。

微笑みの仕草。

優雅というより、無垢。

白い頬に、赤みが滲んだ頬。

照りのある唇が、恋人の名前を呼ぶ。

深い 愛を込めて


「…………」






…………何考えてるんだろう。



叔母さんがほろ酔いで帰ってきて、湯上がりの敦子が介抱している姿を横目に、飯島家を出た。

敦子は渋っていたが、また河田にイロイロとうるさく言われるのもゴメンだ。

注意だけ促して、じっとりとした夏の夜空の下へ降りた。

時計を見ると時刻は12時45分

俺はカバンを小脇に抱えて、のんびりと遊歩道を歩いていく。

イヤホンから漏れる音を気にせず歩けるから夜はいい。

空はどんよりと暑さで歪んでいて

星はどこにも見えなかった。