「だって敦っちゃん、お前が好きじゃん」

「好きだからって、俺が応えなければ関係ない」

「はぁ、贅沢言うよな、お前」

河田の言い分は分からなくもない。

酷い事をしていると、他の友達に言われたこともある。

だが、俺はちゃんと敦子に断わっているんだ。

事あるごとに、「敦子とは無理だ」って。

だから今のこの関係は、敦子がいいというなら俺は許容するし、俺ができる最善の接し方でもある。

「俺なら気にしないけどねー」

「俺は気にするんだ」

敦子は従妹だ。

と言っても、形式上だが。

俺の叔母の再婚相手が連れてきた子で

俺とは一切血の繋がりはない。

「おらー席つけ、はじめるぞー」

担任が入ってきた。

数学の授業が始まる。


「黒沢潤(クロサワ ジュン)」


黒板に数学の問題が書かれて、名前を呼ばれた。

担任が黒板を軽く叩くと、お前は1番な、と回答する問題を割り当てられた。

「河田康平、お前2番だからな、ちゃんと予習してんだろうな」

「え、ぁあ、へーい」

河田は気まずそうに言葉を濁し、後ろで「やべぇ」と一言漏らす。

やってないな、お前。

「あー、えーと、潤ちゃん、余裕の表情ですね」

「何のために俺が休憩中に参考書開いてると思ったんだよ」