√セッテン

「え? 勉強すんの?」

何を楽しみにしていたのか、敦子ががっかりした声を上げた。

「明日は、試験だろ? 音の悪いオーラルなんだ。点数取りこぼしたらどうするんだよ」

当たり前のことを敦子は驚きの顔で見つめてくる。

「なら、選択しなきゃいいのに、潤、理数系特進なのに」

「敦子は俺がなんでオーラル取ったか知ってる?」

「え? なんで?」

「試験が他の選択の中でもっとも出題が予測不能で、楽しいから。分ったらお前もちゃんとやれ」

俺は言って、参考書をテーブルの上に置いた。

敦子がすごい嫌な顔をして、テレビのリモコンの音量を大きくした。


「潤って、本当に、バカ!!」




オーラルの例題を読みながら、頭の中に書き込みする。

思考にまだ余分があったので、敦子の言葉を思い出した。


『蔵持七海にも、好きな人がいたのかなぁ』


はじめて見たのが死の待ち受けからだった俺にすれば

正直、考え付かない論点だった。

死の待ち受けに出ている人間の恋愛事情なんて、普通結びつかない。

蔵持七海

人見知りだと言った彼女。

ぼんやりと考えていると、オーラルの例題を書き取る頭の中の手が止まっていた。