『潤は優しいから……』

敦子の声は少しトーンが落ちた。

『千恵に、焦らずに前を向けって言いたかったんだよね』

「そう、こういう状況で力になってくれるヤツって、普通キライにはならないだろ。山岡、気持ちをはき違えてるんだよ、多分」

『……だったら、そう言った方がいいよ。誤解されてる可能性あるし』

もう、と受話器越しに、敦子が重いため息をついた。

『とりあえず、私は潤のこと、好きだから。分った?』

「ありがと」

普通に答えたつもりだったが、敦子は何か不服そうにブツブツ呟いていた。

『潤、今どこ?』

「飯島家の前」

『え?』

飯島家の前で家を見上げる。

敦子の部屋で、影が動いた。

「お前も心配だったから」

『も、って何よ。怪我人なんですけどぉ』

敦子のブーイングが続く。

影がピョンピョンと跳ねている。

「……家、芙美叔母さんいるか?」

『お母さん、今日会社の人の送別会に出ちゃった。12時には戻ってくるよ』

「そっか……じゃ、それまで、子守りするか」