「まだ、焦るには早い。焦ると正しい答えは出せない」

『うん……分ってるんだけどさ、でも、気持ちはやるってか』

「……」

『どしたの潤?』

「敦子、お前、人のこと真剣に知ろうとしたことあるか?」

『あるよ。潤のこと』

ずいぶんとアッサリと、敦子は返事をする。

「知ろうとするの、楽しい? 楽しいとしたら、それって俺が数学解くの楽しいって言ってた奴と同じだと思うか?」

『同じじゃない? 私、潤のこと知るのスゴイ好きだよ。潤のこと分る気がするもん。まぁ、潤に至っては手強いけど、河田くんとか、結構楽そう』

一瞬河田が憐れに思えた。

『潤風に言えば、答えを導くための過程が楽しい、っていうのと同じだと思うよ』

「でも人が相手だと数式とは違うだろ、自分の理想と違うことだってある」

『うん、そうだね、真理と違って必ずしも答は1つじゃないから、だっけ? 潤が前に言ってたね』

「だよな、お前も今日、コンビニ前で叫んでたし」

微妙なニュアンスを感じたのか、敦子の反応が早かった。

『千恵に、なんか言われたんでしょ』

「山岡もせっぱ詰まってるんだろうな、分ってる」

『もうキれたりはしないけどさ。もちろん、付き合うとか好きだとか、言ってないよね!』

「言ってないよ」

『潤の言い方に、千恵が傷ついてないことを祈るよ』

「……敦子は傷ついたワケ?」

『私はいつも、潤に好きって言ってるのにスルーされまくって傷ついてますっ!!』

冗談めかした笑いがスピーカーから漏れる。

『潤が千恵に何て言ったかは知らないけど、私が潤と別れた時は、一生懸命考えたよ。どうやって潤のその鉄壁をぶち壊してやろうか、って』

「鉄壁って」

俺は一体……?