「人を深く知ろうとすると、ロクなことない……ちゃんと選ぶべきだ」

「潤はね、私にとって、選択肢に入るの」

「結局幻滅しました、っていうのはこっちが負担なんだけどな、それより今は……」

「それは、私の責任でしょ? 知ろうとした、私の責任」

だから、これ以上はもう言わないけど

山岡は、本当に小さな声で言って、俺の右腕をぎゅっと握りしめた。


「好きにならなくてもイイよ、イイから、潤を好きになろうとする気持ちを、拒絶しないで」

山岡の手が、ひどく熱い。




それから山岡の家に着くまで

俺と山岡は一言も喋らなかった。




空を見上げると、ライブハウス探索をしていた時に赤みを帯びていた月が

少し白くなったように見えた。


耳元で流れる音楽に指先がリズムを取る。



線路沿いの道を行くと、時折花火の香りがした。



門前まで山岡を見送ったが

結局最後は「また明日」だけで

俺も山岡もそれ以上何も言わなかった。