山岡は真剣な顔で俺を見て

手を強引に引いて電車に乗り込んだ。


4号車両は人がまばらで、皆ケータイと向き合っている。

俺の後ろでペプシ缶を開けたような音がしてドア締まった。

「山岡……」


トン、と背中がドアにあたる。


俺の手から、山岡の手がするり、と抜けるが

逆の腕を山岡に掴まれた。

背中を向けていた山岡が振り返る。




電車が、一度ガタンと揺れる。



振り返った山岡の唇が、俺の唇と重なっていた。


間も置かずに、唇は離れた。


景色が流れ始める。

俺は瞬きだけして、山岡を見た。




「……私は潤を知りたいよ」




「知ってるだろ? お前今極限状態だから、少し思考が鈍ってるんじゃいないか?」

「鈍ってないよ、私は潤のこと」

「知るか、知らないかだったら、もう山岡手遅れなくらい知ってると思うけど」

言って俺は自分の唇を指した。

山岡は、少し顔を赤くしたが、視線を逸らさずに続けた。