「もう十分困ってる」

「潤がもっともっとバカならよかったのに!」

敦子はひゃっくりをあげながら、そう呟いた。

「そしたら、好きでもない子に好きって、平気で言えたりできるじゃん。河田君みたいに、二股だろうが三股だろうができるじゃん」

こんなときに引き合いに出される河田もかわいそうだったが、一理あるな。

俺はあんまり器用じゃないから

面倒なことと、面倒じゃないこと

白か黒か

そのどっちかにしたがるクセがある。

それが曖昧なら、世の中どうでもよく見えてくるんだろう。

敦子は、比較的そういう要素が強い奴だ。

今が楽しければ、今を謳歌できればいい。

そういう刹那的なところ、羨ましいと思ったこともある……だけど

思うだけで、俺はそうはなれない。

「敦子、俺はお前に、そういう対象には見れないって言った。今のままじゃ、ダメなのか? 泣くほど辛いか?」

「え……? 何…? やだよ、今以下の関係になるのは、絶対嫌!」

敦子から離した手を、追いかけるようにして掴んでくる。

長い爪が、手のひらに食い込んだ。

「でも、今の関係も、イトコだからなんだよね。イトコ以下の、ただの知り合いとか、考えられない!!」

敦子の手は震えていた。

視線は俺を見ていたが、万華鏡のように瞳が揺れていた。

「潤との接点がなくなるなんて、考えたくない!」

俺に拒絶されると思ったのだろうか。

「一緒に学校行きたい、潤のクラスに行って、潤と話したいよ。その特別は誰にも譲りたくない」

「おい、敦……」

「千恵には、譲りたくない……!」

落ち着け、と声をあげようとしたら、敦子の高音に潰される。