なぜ?

という顔をしていたのだろう、河田は周囲に気を配りながら続けた。

「事故だってさ、昨日の晩に車に跳ねられて。山岸さんの前方不注意らしい。自分から飛び込んできたらしいぞ」

「え、絵里子……!」

クラスの女子の1人が、我慢できない様子で泣き出した。

わっとその勢いが放射線状に広がる。

山岸絵里子の死は、夢ではないようだった。



「黒沢君、いいかな……」

真っ先に泣き出したクラスの女子、山岡千恵が席へとやってきた。

一度だけ委員会が一緒になったことがあるので名前は知っていた。

泣いて充血した目は、心なしかいつもより一回り小さく見える。

薄いブルー、水玉のハンカチが涙で濡れていた。

「何?」

泣き顔をじっと見る趣味はないから、参考書に視線を移した。

「絵里子の通夜、黒沢君にも、来て欲しいんだ」

「俺に?」

「絵里子、黒沢君のことスキだったんだよ、知ってるよね」

「…………」

「ごめん、黒沢君が他に好きな人がいるって、絵里子に伝えたことは聞いてるんだ。
でも絶対、絵里子は見送ってもらった方が喜ぶと思うの、絵里子は黒沢君のこと好きだから……」

グス、と山岡が涙を飲み込む。

「自分をフったやつが通夜に来ても、嬉しくないだろ」