「ない? 高校2年生でしょ、夢いっぱい、希望いっぱいの年齢じゃない? 君みたいに頭がよければ、なんでもなりたいものになれそうなものだけど。2年のくせに、どっかの塾のセンター模試、こっそり受けてなかった?」

俺のことをずいぶんと調べているようだったが

まぁ、社会人なんてそんなものか

話がスムーズに進むように、相手について調べておく方がいい。

俺がこの人について調べていたのも、また同じことだ。

「俺には関係のない話です」

「クールだね、かわいげがないとも言う」

「夢がなくてはいけませんか?」

「いや、夢があるとね、あるなりに、逆に苦しい思いもするから。夢盛んな君たちの年齢、今どきの子はどうなのかなって、そういう単純な質問だよ」

「霧島さんの夢は何ですか?」

その質問を待っていたとばかりに、彼は微笑んだ。

「僕は歌姫の望みを叶えたかった」

「歌……?」

「僕、バンドやるんだよ。パートはボーカルじゃなくて楽器の方ね、僕の夢はボーカルの夢を叶えること」

「……メジャーに行って、有名になるとか、そういうことですか?」

「まぁ、そういうものかな。でも、狭き門だから苦労もするよ。夢を持って生きていて、突然それが叶わないと知った時の絶望、自分の可能性を信じ切れなくなった瞬間、これほど悲しいことはない」

話題を逸らすつもりなのか、どこに核心があるのか分らずにいた俺に、霧島悠太は視線に答えた。

「僕がタナトスの館を作ったのは、2年前」

霧島悠太がペーパーナプキンを1枚取った。

「今のこの仕事のためだよ。都市伝説や、ミステリー情報を集める、ようは取材のためのネタを収集するためのね」

長方形のペーパーナプキンを、ピンと張って、続ける。

「ネットの方が、うわさ話や怪談ネタなんかはごろごろしてるだろ? 下手に取材にいくより効率的だ」

実際こうやって君と会うのが遅れたのは、北海道でネッシーが見つかったなんて情報のために取材に飛ばなくちゃいけなかったせいだから、やってられない。

霧島悠太はひねくれた笑みをこぼした。