「……っ……うっ…」


相手は無言だったが、微かに吐息が聞こえる。

走ってる……んだろうか?

定期的に聞こえる、アスファルトを駆ける足音。

車のクラクションの音や生活音が遠くに響く。

「潤、誰だったぁ?」

敦子の大声が耳に響く。

こんな時間に敦子と一緒にいることを知られるのは嫌だ。

相手は誰だか分らないが、学校のヤツだったらおかしな噂を広めるに違いない。

急いでスピーカーを押さえたが、遅かった。

「…っ…ハァ…ハァ…」

涙を堪えるような、喉から吐き出すような吐息が入る。

「う……が……うたが」


ブツ、と電話が切れた。


呆然と電話を見つめる。


女の声……だったな?

誰だったかは分らないが……

「イタ電に決定」

思い切り着信拒否の設定をして、俺はオムライスへ戻った。

食事を邪魔したイタ電に苛立ちを感じながら俺は席に戻る。

「それでさ、河田君にも話したんだけど、ムーントピックで死んだ人」

「食事中に変な話するなよ」