何が原因で死に繋がっていくのか分らない。

小さな傷からの感染症だってある。

保健室のドアを引く。

開いていたが、保健医の若生はいなかった。

「どこ行ってるんだ若生のヤツ」

「潤、その黒い字でdisinfectantって書いてあるのがそうだよ」

「これ?」

「うん」

移動用のスチールラックに入っていた小さな小瓶と綿を持って山岡の前に座った。

指を出した山岡の傷口を見る。

パックリと開いた傷口は痛そうだった。

消毒をしている中、無言の俺に、山岡がポツリと何か言った。

「どうした? 痛いか?」

「さっき、怖かったけど、私叫ばなかった」

「まぁ、叫ぶ前に、声飲み込んじゃうだろ」

「……ううん、違うよ。潤がいたからだよ」

「俺がいて、よく見えなかった?」

いたずらで言った言葉に、山岡は小さく笑って首をかしげた。

敦子ならいつもここで罵声を上げるんだが、山岡のリアクションは儚げだ。

「潤も何も言わなかったね」

「本当に怖いと、声ってなくなるもんじゃないか?」

「緊張による神経の一時的な麻痺ってこと? でもそうは見えなかったよ」

ペタ、と指にガーゼとテープを巻く。

顔を上げると山岡が笑っていた。


「ありがとう」


山岡の赤い唇が、少しついばむ。


そしてそのまま、俺の額に触れた。

「……山岡?」