ただの髪の毛1本だと言うのに。

俺は勢いよく蛇口を捻った。


吹き出た水に、髪が逆流して流されていく。


『ねぇ……』


声も、水音と一緒になって溶けて消える。

詰まるかと思いきや、するすると髪は配水管に消えて行った。


水だけが、音をたてて流れる。

山岡がほとばしる水に左手の人差し指を突っ込んだ。

水の勢いで髪は緩み、排水溝へと流れていく。


「………はぁ、はぁ」

山岡が深く息をする。


俺も一瞬息を忘れていた。

数分呆然として、俺がやっと蛇口を締める。

きゅ、という音で、水は止まり、俺と山岡の間にも正常な時間が戻る。

「……今の、今の何?」

「おととい、コンピュータ準備室にもこういうのが出た」

「え?!」

「幻覚かと思った。暗かったから」

「……これも、死の待ち受けの、影響?」

「分らないけど……こんなありえないこと、死の待ち受け関係以外にもあるって、おかしすぎるだろ」

言って山岡の指を見る。

「山岡、指……血が出てる。保健室行こう」

「大丈夫だよ、絆創膏…」

「消毒したいだろ。あんなもんに巻き付かれたんだぞ」

山岡の意見を無視して腕を引く。