「なに?これ……」

山岡が、声を抑えながら排水溝を見つめている。

「なんで…?」


排水溝からは、髪が伸びていた。

水が排水に流れ落ちるのと逆に

排水溝から生えるように、ゆっくりと、束になって四方へ広がっていく。


音なく広がっていくから怖い。

いっそ、やたら怖い恐怖BGMでも流れてくれた方がマシだった。


「うそ……うそ……」


『ねぇ……』


排水溝から声がする。

髪が喋るわけがない。


いや、本来排水溝が喋る訳もない。


声は意外に澄んでいた。

状況が違えば驚くこともない普通の女の声だった。


山岡を後ろへ押して、排水溝に1歩近づく。

排水溝には、はい上がるように広がる髪しか見えない。

「……」


『…出して…』


「痛ッ」


山岡の指に絡まっていた髪の毛が、左手の人差し指を締め付けた。

「なにこれ、やだ……」

山岡が必死に髪を擦り落とそうとするが、強く巻き付き、離れようとしない。