「山岡、uはy二乗分の1だぞ」

シャーペンの先で、山岡の式をストップさせる。

あぁ、と山岡が嬉しそうな声を上げた。

「そうか、ここ分数なんだよね、もう何考えてたんだろう私、だから答おかしかったんだよね」

山岡が喜んでいると、なんだかほっとする。

俺は数学の教科書を閉じて、物理の世界に帰った。


ふと、視線を上げると山岡が廊下に出て行った。

自習とはいえ授業中なのに、どうしたんだろう

「山岡どうした?」

1人になるのは危険な気がして、せめて学校にいるときぐらいはと俺もクラスを出た。

教室を出た廊下で、山岡は言いにくそうに口元を押さえた。

「なんか口の中に絡まってて……」

「……昼間の弁当?」

「か、かも…」

山岡がかぁ、と赤くなる。

はぁ、変な心配した俺がバカだったな

「おかしいなぁ、今日歯に挟まるようなもの入れてないんだけどっ…歯磨きしたときはスッキリしてたし」

水道前に手鏡をのせて、山岡は口を開けた。

「え? やだ……」

「どうした?」

山岡は左手の人差し指と親指に絡まっているものを見せた。

「髪の毛?」

「み、みたい……私、こんなに長くないから、ちょっとびっくりして」

「違和感、これか?」

「う、うん……そうなんだけど、誰のだろ、嫌だな」


ゴポッ


右側で音がして、振り返る。

蛇口の並んだ流し場から、水がふくれる音がする。

水道管でも詰まったのか、視線をそのまま排水溝までシフトする。

オレンジを輪切りにしたみたいな排水溝のフタの中で、また水の音がした。