「何かあったら電話しろよ、俺も今日遅くまで起きてる」

山岡は両手でクレープを握りしめて、一度無言で頷いた。

「クレープ、ありがとう」

「ん」

山岡は言ってまるで電車に乗り遅れるかのように走って改札に消えていった。

「潤!またそれ?たまには違うのもチャレンジしなよ」

「それなに?うわ、ふつー」

河田は言いながら勝手に一口食べた。

「って、あれ、千恵は?」

敦子が辺りを見回すと、もう帰ったと一言付け足す。

「千恵、勉強熱心だね」

「まー山岡ちゃんは、特進の星、ですからぁ」

河田が店員からクレープを受け取って敦子に渡した。

「千恵って頭いいよねぇ、体育のときとかグループ一緒の時とかあったんだけどさ。
マスゲームのときとか、位置の割り出しとか、多角形の角度計算とか、すごく早くて」

「医者になりたいらしいよ。でも結構和み系だから、人気でそうだよな! 敦っちゃんは、白衣の天使とかどう?」

「それは妄想のハナシ? 私は無理。私はねー当面の目標は、県大会出てーそれから販売員になってー」

河田は楽しそうに敦子の話を聞いていた。

俺は半分くらい放置して、クレープの皮をかじりながら頭を回転させていた。


蔵持七海と、暗い部屋が映された死の待ち受け

準備室でのあの幻覚

霧島悠太

全てが繋がっているはず。


「潤は?」

「ん?」

「潤は高校出たら、どこ行くの?」

「まだ考えてない」

適当に返すと、河田が意気揚々と俺はね、と語り出した。

長い河田の話が終わると、丁度俺のクレープはなくなった。

敦子の手元には、なんだかよくわからない組合わせのクレープがまだ残っている。