「へぇ、なんか意外だな……いつもオレンジジュース飲んでるなっとは思ってたけど」

「……よく見てるな」

「え、み、見てるっていうか」

「そーだな、みかんの入ってるクレープなら申し分ない」

「ぷ、そうだね、オレンジ、好きだもんね」

山岡が笑った。

山岡はいつも気を張りつめた表情をしているから、笑顔を見ると少しほっとする。

「……山岡は?」

「え? 私? 私も大好き。駅前のマリオンクレープのバナナチョコ」

「ちょっと2人遅いよっ! 運動部入って鍛えたら!?」

前方から敦子の怒声が聞こえる。

俺と山岡は肩をすくめると、早歩きを始めた。


「私ね、苺アイスジェラードにトッピングでナッツ!あ、でもちょっとまって、チョコチップにしよっかな」

「敦っちゃん、トッピング代なら奢っちゃうよ」

河田と敦子がクレープが並ぶショーケースを見ながらもめている。

山岡はそんな2人を見て笑った。

「兄妹みたい……あ、って言ったら河田君ショックか」

「だろうな」

「じゃあ、私帰るね」

山岡が言って1歩進んだところで止める。

「ちょっと待て」

俺はトッピングに迷う2人を捨て置いて、店員にチョコバナナとオレンジクレープを頼んだ。

軽い手さばきで焼き上がった少し厚めのクレープ生地。

「はい」

上から覗いて、バナナとチョコが見えるクレープを山岡に差し出す。

「え?」

「帰り、電車待ちの間食えよ。糖分補給は大切だぞ」

「あ、えと……」

「あと、お前、俺の電番は知ってるんだよな」

山岡にクレープを無理矢理渡すと、話を変える。

いらないと言われても、俺は2つも食べれない。