大きな黒い目が、俺を見てる。

俺は足を止めて、敦子の方へ振り返った。

「潤が今日、あんなに怒ってくれたのは、私が大切だからですか」

制服も、あかね色に染まる。

夏の日差しは、夕方遅くになっても、暑い。

「黙ってないで、早く答えてよ。地元の暗算選手権で3位だったじゃん!?」

「それと関係あるのか?」

「あるよ!」

敦子の方が、この暗算は速いらしい。

速効返答が返ってきた。

「森先輩の葬儀の時、敦子だからだって言ってくれたよね」

敦子の視線はまっすぐ

逸らしたら、負けだ。

「心配なのは、敦子だからだって」

敦子はそこまで言って、口をもごつかせた。

何か言おうとしているのは分かったが、俺は黙っていた。

「お前泣かしたくない」

一言だけ言ってコンピュータ室に戻る廊下に入る。

後ろから足音が聞こえなかったが、すぐ足音が付いてきた。

後ろからシャツの裾を引く手

敦子の手だ。

「そのままでいいよ、ちょっと聞いて」

「……」

「潤が私のこと、好きになってくれないのは、イトコだからだよね。血なんて繋がってないけど」

「うん」

「潤もさ、今の関係が壊れないように、私の我が侭に答えてくれてるって分ってる」

コツン、ではなく、ゴツンと勢いよく敦子の頭が肩胛骨に当った。

……痛い。

「でも私は……」