「いや、これがマジらしいよ」


敦子は上機嫌で机に腰掛けた。

机の上に広げてある、俺のノートの端が尻に敷かれる。

参考書の角で、無意味にでかい敦子の尻をつついてどかそうかと思ったが

教室内でセクハラだと叫ばれても面倒だったので、とりあえずやめておく。

「昨日、立幸館高校のキョウコに教えてもらってね!!」

こちらが聞いていないのを分かった上で、敦子はケータイを片手に話を続けた。

ストラップについたマスコットが揺れる。

立幸館高校のキョウコというのは敦子の友達で

他校だったが、敦子と同じソフトボール部だったな。

「で、キョウコの友達の朝日と慶一さんも持っててね!マジやばいと思って私も!」

「敦子」

「え?何?」

敦子はやっと俺が敦子と真面目に話をする気になったのかと

ちょっと嬉しそうな声をあげて身を乗り出した。

「予鈴、鳴るよ?」

俺は楽しそうな敦子を置いて、教室内の時計をペンで指さした。

時刻は授業開始1分前を指している。

敦子は慌てて机から腰を上げると、飛び出して行った。

敦子のクラスは次は古文、担当の江古田はかなり厳しい。

「いいよなぁ、敦っちゃん」

後ろの席の河田が楽しそうに俺の肩を叩いた。

「さっき太もも大サービスだったし」

あとはもーちょい屈んでくれたら、と独り妄想に入りだす河田。

中学校からの腐れ縁で高校まで同じクラスになったが、そろそろ縁を切りたいと思う。

一緒にいて、俺まで変質者だと思われたら困る。

「好きなら告れば?」

参考書を引き出しに乱暴に入れて、次の授業の教科書を置く。

蛍光ペンからシャーペンに持ち替えて、体を河田へ少し向けた。