「ところで、今なにやってんの?」
運転しながら彼が切り出す。
「田舎に帰ったんじゃねぇの?」
「帰ったよ。迅の言われた通り。親とも和解した」
「そっか」
あの時、私が自殺して死のうとしていた時、両親なんていないと言っていたけれど、察したように彼は何も触れないでいてくれた。
それが彼の不器用だけれど、優しいところなんだよなぁ。
結果的に、両親ともきちんと向き合うことができて、ひとつ前へ進めた気がする。
「あれから地元で働いていたんだけど、やっぱり迅に会いたくなって、きちゃった」
「来ちゃったって、お前……そんな簡単に」
「でも、簡単じゃなかったよ。
東京に来るのも、こっちで暮らしていくのも。
JOKERにも行ったけど、会えなかった」
「あー、辞めちまったからな」
「でも、やっぱり迅のことが忘れられなくて、もっと迅にふさわしい女になろうって決めていた。
頑張って働いて、店舗を任されるようになって、そしたら社長にも見込まれるようになって、経営にも携わるようになった。
そしたら、こうして出会えた」
しばらく走って、彼は車を停めた。
「俺、そんなに良い男じゃねぇよ」
困ったように前髪をくしゃりとして俯いた。
「知ってる」
「おい、そこ否定するところだろ」
おかしそうに彼が笑った。
「他に誰か別の人がいるかもしれないし、私のことなんて憶えてくれている保証もなかった。それでも、そんな迅が好きなの」
真っ直ぐ捉えるように彼の瞳を見つめた。
「そんなこと言われたら、嬉しくない男なんていねーよ」
離さないように、ぎゅっと抱きしめた。
「ねえ、また一緒に暮らさない?」
私からそう切り出した。
「悪いけど俺、昔みたいに金持ってねえんだわ」
でも、返ってきた言葉は前向きなものではなかった。
「あれから色々あって、借金作って、逃げ回って、今生活していくのもやっと」
「お金の心配なら大丈夫だよ。私が稼ぐから」
「マジかよ」
「実は今、いくつか会社を経営しているの。社長の元で働いて、独立した」
「……頼もしいな」
「今までお世話になったから、これからは私が恩返しさせてください」
そう言うと、二人で笑い合った。
またこうして迅と二人で笑い合える日がくるなんて、夢みたいだった。
「ねぇ、また海に行って、あの日みたオレンジが見たい」
そんなワガママを言った。
これから、降り積もる沢山の話をしよう。
あの日みたいに、再び海へと車を走らせた。
~ E N D ~
最後まで読んでくださり有難うございました!
拙い文章ではありますが、読んだ感想などくだされば今後の励みになります!

