「私ね………今まで逃げてた。自分の事を好いてくれていない紀田を好きでいる事が辛くて……。羽麻くんと付き合えば忘れられるって思ってた」
何も言わずにただ
私を見つめながら
冬の星ぼしに照された
彼の顔は酷く切なそうで
真剣に私の気持ちを
聞いてくれている
「こんなこと言っても、ただの言い訳にしかならないけど……本気で羽麻くんを好きになれると思ってた。でも、やっぱり私の心(なか)に浮かんでくるのは、いつでも紀田で。」
どれもこれも嘘のようで
全部本当…………
「はっきりいって私は、羽麻くんの優しさに甘えて利用していた最低な人間なの………。でも、今それに気づいたからこそ………これ以上、羽麻くんを振り回さない為にも………別れた方がいいと思う………」
「…………なんか」
今まで押し黙っていた
羽麻くんが口を開く
「内倉らしい解答だな。」
「私らしい?」
「うん。言っとくけど俺、内倉に利用されてるなんて思ってないから。この関係は、そもそも俺が無理矢理作ったようなもんだし。」
「ごめんね、羽麻くん。」
「謝んなよ。自分で決めた事なんだろ?」
「うん。私、紀田が好き!紀田が他の誰を好きでも構わない………これから私が振り向かせるから!」
「さすが。それでこそ内倉だよ。その気持ち忘れんな………何かあったら俺に頼れよ?」
羽麻くんがいつも通りの笑顔で
私の頭をくしゃくしゃっと撫でる
「うん、ありがとう!!」
満面の笑みで
お礼を言う
「それ、反則だろ………」
「よし、明日から作戦開始だ!!」
一歩前進出来たことに喜びを感じ
覚悟を決めていた私には
羽麻くんの言葉が聞こえて
いなかったーーーーーー
ーーーーーーーーー
それから数日後
「え!?80点以上取らないと冬休みがないって嘘なの!?」
「あれ?言ってなかったっけ?……あれは、ゆあの誕生パーティーを開くための口実だったの!」
「そんなっ!!」
心配して損した!!!
とはあえて言わないでおく。
「でも、それが嘘ってことは………」
「デートは絶対」
「まだ、最後まで言ってないんだけど………」
偉そうに座りながら
私を見下ろす紀田を
睨みながら言う
「お前の言いたいことなんて、お見通しなんだよ……」
「は!?」
「つまりお前が猿であることの事実を裏付けてるわけだ。」
「いや、意味わかんないから!!」
「あ、じゃあ………こうするか。俺に勝てなかったら、俺とデートな。」
こ、こいつっ!!
「………くっ!!絶対勝つ!!」
相変わらず嫌みったらしくて
性格悪いけど………
私はもう迷わない。
本気で要さんと戦うし
本気で紀田を振り向かせてみせる
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そうして訪れた期末考査
どうやら結果が出たみたい。
もちろん私は………………
学年順位を見ながら
ニヤニヤと笑う紀田
まじできもい。
「その顔やめて。気分害すから。」
「あ?負け犬の遠吠えか?」
「んのやろう!!」
喰らえ!!
必殺ゆあ特製右ストレートパンチ!
心の中で叫びながら
繰り出した右ストレートを
意図も簡単に受け止められた私は
紀田の腕にすっぽりと納まる
ちょ…………これズルくない?
「デート楽しみにしてるからね?俺の事が大好きなゆあちゃん」
耳元で囁かれた言葉に
顔が真っ赤に染まる
そんなこと言われたら
逆らえないじゃんか
紀田のバカ!!!

