その姿を見ても俺には何の感情も湧いてこない。頭に血が上る、いやぶちぎれた狂人と言えるだろう。その姿を見ても俺はとどめを刺してやろうとまた拳を振り上げたのだから、それを見て恐怖する正樹の怯えた目。弱々しくて震えている子犬のような目。詩織に対して助けを求めるような目。それらがすべて癪に触る。

 殺してやる。いっそうそう思って感情のまま振り上げた拳は鈍い音を立てた。でも拳からではなく振り上げた肘に鈍い感覚が伝わって、俺がその感覚の下に目をやって、初めて冷静さを取り戻すことができた。