そして僕らはあの河原から二人で並んで帰るようになった。とにかく彼女はよく喋る女の子で、僕はいつも彼女の話しを聞いては相槌をうつ。

 昨晩観たテレビの事、休日の出来事など。

 五年生の中でも体格の良い方の僕は、少し小柄な彼女よりも身長が高い。そんか僕を見上げるように見つめ話し掛けてくる彼女。

 とある日の昼休み、ちらりと六年生の教室を覗いた時に彼女は、周りのざわざわとした様子など気にも止めず、自分の席で一人静かな本を読んで過ごしていた。知り合いの六年生によると、いつも昼休みは友達と遊ぶわけでもなく、一人で静かに本を読んでいる大人しい女の子らしい。

 しかし、今の彼女の姿からは想像も出来ない。

 それくらい、よく喋り、よく笑う。

 退屈な学校から解放されたかのように、きらきらとした笑顔で僕を見つめながら。

 いつの頃からか登下校だけではなく、放課後や休みの日も一緒に遊ぶ日も増えていた。

 彼女は僕のしている事をなんでもしようとしていた。

 例えば釣り。

 放課後に僕がのんびりと近くの池で釣りをしていると、いつの間にか彼女がやって来て、僕の釣りをじっと眺めていた。

「釣れよる?」

「まだ」

「なんば釣ると?」

「バス」

「バス?」

「ブラックバス」

「あぁね」

「知っとると?」

「うん、テレビで見た事があるけん」

 僕は、そんな彼女とのやり取りをよそに、くるくるとリールを巻きながらルアーを回収した。

「面白い?」

「うん」

「うちにも出来る?」

「わからん」

 ひゅんっと遠くへと飛んで行くルアーを眺めながら彼女は僕の横へと近付いて来た。僕が立っているのは少し泥っけの多い場所。彼女のきれいな靴が汚れてしまう。その事を僕が教えると彼女はじっと水面を動くルアーから目を離さずに、大丈夫と一言だけ答えた。

 僕はルアーを回収しては投げるの繰り返し。

 そんな時だった。

 水面に水飛沫が上がると同時に、ルアーが水面へと吸い込まれて行く。

「来たっ!!」

 僕のその言葉に彼女はぱっと僕の方を一瞬だけ見ると、直ぐに水中を走るバスの方へと視線を戻した。彼女の目は水面へと釘付けになり、小さな華奢な手をぎゅうっと握りしめている。

 バスとの格闘の末、僕らの足元にバスの姿が見えた。そしてそのバスを掴むと彼女の目の前へと差し出した。

「わぁ……釣れたね」

 彼女は僕の釣り上げたバスに驚きの声を上げ、しばらくバスを眺めていたが、恐る恐るバスへと手を伸ばし、そっと触れた。

「魚だね……」

「うん、バスだもん」

 僕は手際よくバスから針を外すと、そっとリリースした。本当は特定外来生物なので、逃がしたらダメなんだけど……

「さよならぁ」

 律義にバスへと手を振る彼女。そして、僕の方へとくるりと振り返り、あの眩しい笑顔を見せてくれた。

 そんな彼女がしばらく経つと、買って貰ったのか並んで釣りを一緒にする様になっていた。

 そういう事もあり、僕らは一緒に過ごす日がとても増えたんだ。