あれは小学六年生の十二月二十四日。僕は初めて女の子と二人で遊びに行った。

「ねえ、十二月二十四日……遊びに行かない?」

 こそりと僕へとそう誘ってきたのは、女の子の方からだった事を覚えている。

 隣の席のとても元気な女の子。黒く綺麗で真っ直ぐな髪の毛に、ちょっとつり目で笑うと八重歯の見える、小学生らしく可愛く、でも、どこか大人びた一面を見せるそんな女の子。

 駅前で待ち合わせて、電車に乗って。

 そう、あの頃の僕は小学生で子供だったという事もあり、テレビドラマの様な夜の街でイルミネーションみたり、お洒落なディナーとかはできなかったけど、二人でデパートのショーウィンドウに飾られた綺麗な洋服をみて、プリクラ撮ったり、街の中心にある公園でたい焼き食べて…

 少し照れくさかったけど……

 たくさん、たくさんお喋りをして一緒の時間を過ごした。クラスの友達の事、担任の先生の事、小学校六年間の思い出。僕らは、帰る電車の中でも尽きる事無く話し続けていた。

 とても、とても、楽しい時間だったけど、そんな時間は僕ら二人なんてそっちのけに、あっという間に過ぎ去っていく。

 僕はなけなしの小遣いでその女の子に手袋をプレゼントし、女の子は僕に手編みのマフラーをプレゼントしてくれた。

 午後六時、すでに冬の空は夜の帳が下がり、僕ら二人を早く家路へと向かわせている様に思えた。僕と女の子は手を繋いだまま、すっかり日の落ちた暗い帰り道を、二人で少しでも長く一緒にいれる様に、ゆっくりと歩いていく。

 しばらく歩くと女の子の家の数軒前で、女の子はぱっと僕の手を離し、ここまでで良いよと少し寂しそうに微笑んで僕を見つめていた。

「手袋、大切にするから」

 小さな声でそう言った女の子はこちらへ振り返らずに走り去っていく。その後ろ姿に僕は何も言わず、ただ手を振った。

 そして、僕の初めて恋は、初めてのデートで幕を閉じた。