君と二人で

 不意に後ろから声を掛けられた私はびっくりして振り返ると、そこに私へ優しく微笑んでくれている彼が立っていた。

「話しは終わったの?」

「うん……て言うか、佐伯君と話すことなんてなかったんだけどね」

「そっか……」

 何だか少しほっとしているような表情にも見えた彼はそれから何も言わず花壇の花をじっと眺めている。

「……ねぇ、綺麗に咲いたよね」

「二人で頑張ったからね」

 彼はそう言うと、ずれた眼鏡を元に戻しながら私の方へと顔を向けた。私は彼に微笑むと、彼は私へと微笑み返してくれた。

 初めてだと思った。私の目をちゃんと見て笑ってくれたのは。いつもすぐに目を逸らしたりしてたのに。

「また、二人で一緒に何か植えれると良いよね」

「まだ、やっと春だよ。あと夏と秋と冬が残ってる。卒業するまでの残りの四季も君と二人で一緒に花を植えれるよ」

 彼は私の方を見らずに、花壇の花を見つめながら言った。私は嬉しかった。彼は何気なく言った言葉だったのかもしれない。でも、それでも私は嬉しくて涙が出そうになった。

「うん」

 小さな声で返事をした私へ、彼はいつもの元気はどうしたの?と聞いてきた。眼鏡の奥から見える眠たそうな優しい目が、彼の顔がふんわりと笑っていた。

「何よそれ」

 とんっと彼に軽く肩をぶつけると、なんだよと彼も肩をぶつけてきた。

 暖かい春の陽射しの中、私はやっぱり彼の横がとても落ち着き、幸せな気持ちになれることを再確認した。