神殺しのクロノスタシス3

…え。

する?そんな質問。

「え、ちょ…。それはどうかな…」

「ふぇ?何で?」

何でって言われても…。

「故郷や家族のことは教えてくれるのに、好きな食べ物は教えてくれないの?何で?」

いや、それはごもっともなんだけど。

故郷や家族のことは、自分ではどうしようも出来ないし、少し調べれば分かることだから、喋っても構わないけど。

自分の趣味嗜好については、完全に個人にしか分からないことであって、これが本当の個人情報って奴で。

それを他人にひけらかすというのは、自分の胸のうちを丸裸にされているようで、何と言うか。

本当、何て言うか。

…気恥ずかしい?

「…あははー」

「何でまた笑って誤魔化すの?教えてよ」

駄目か。

言わなきゃ駄目なのか?

「…誰にも言わないでくれる?」

「…そんなに隠すような食べ物なの?」

「隠すような情報なんだよ…」

こんなこと、『八千代』に知られたらと思うと。

今すぐ、好きな食べ物変更したくなる。

「何々?こっそり教えて。こっそりこっそり」

何?その好奇心丸出しの顔。

余計気恥ずかしくなってくるから、やめてくれないかな。

「…えっと、いちご大福…」

「…」

「…」

…やっぱり、言わなきゃ良かった。

「…ごめん、今のやっぱりなしで、」

「本当?本当に?私もいちご好きだよ!一番好物!私と一緒だね!」

そうなの?

いや、俺はいちご単体じゃなくて、いちご大福が好きなのであって。

それも、好きと言っても。

「本当に好きかは分からないよ。一度しか食べたことないから…」

「えっ。一度しか食べたことないのに、好きなの?」

「…そのときは、凄く美味しかったような気がするんだけど…」

だからそれ以来、いちご大福をリスペクトしてると言うか…。

単に、記憶が美化されてるだけなのかもしれないけど…。

「そうなんだ。男の子なのに、スイーツ好きなんだぁ」

…笑ってるし。

「…やっぱり言わなきゃ良かった…」

「ううん。何だか今日、初めてすぐり君の素顔を見れた気がして、嬉しい」

何が?

それの何が嬉しいんだ?

分からない。ルーデュニア女子の考えること、全然分からない。

「好きな食べ物、お揃いって嬉しいね」

「そう…?」

「じゃあ、嫌いな食べ物は何?」

「あぁ、それは桜餅」

「…そっちは即答なんだ…」

うん。

別に隠すことじゃないからね。

「何で嫌いなの?同じ和菓子なのに」

「味の問題じゃないよ。食べたことないし」

「じゃあ、何で?見た目が嫌い?それとも匂い?」

「桜餅が悪いんじゃなくて、俺が大ッ嫌いな奴が桜餅を好きだってことが判明したから、俺は桜餅が嫌いなんだよねー」

「えっ」

つまり、桜餅に罪はない。

罪があるのは、『八千代』だ。

『八千代』と俺だ。

「それなのにこの間、手作りだとか言って桜餅作って持ってきたから、顔面に投げつけてやったよ。あれは壮観だっ、ぶっ!」

「何でそんな酷いことするの!」

ちり取りに集めていた桜の花びらと葉っぱを、顔面にぶちまけられた。

あまりに一瞬の出来事で、避ける暇がなかった。