神殺しのクロノスタシス3

…仕方ない。

ここは、昨日と同じく。

嘘と真実を織り混ぜた、嘘をつくとしよう。

「昨日、俺施設育ちって言ったじゃん?」

「うん」

「そこがさー、あんまり良い施設じゃなくって」

「えっ」

「まともに教育受けられなかったから、俺、馬鹿なんだよね。成績落ちこぼれの劣等生」

「…」

「お陰で、ここに来てようやく、まともに勉強してる。おっかしいよね~。国内最高峰の学校に入学してるのに、今更小学生の習う範囲勉強してるのなんて、俺くらいだよ」

あ、俺と『八千代』もそうだ。

二人くらいだな。

「…」

ツキナは無言。

信じたか?信じてるよな?多分。

「ツイてるんだかツイてないんだか。まぁ、生きてるんだから儲けものってことで…」

「…昨日から思ってたけど」

「え?」

「…すぐり君は、悲しいことをへらへら笑いながら話すよね。あれって、何でなの?」

「…」

…驚いた。

そんな質問をされるとは思わなかった。

…え?

「…俺、へらへら笑ってた?」

「笑ってるじゃん」

「…笑ってるんだ…」

それは、自覚なかったなぁ。

「それは多分、へらへら笑ってやり過ごさなきゃ、やってられないようなことだからじゃないかな?」

「…違うよ」

ツキナは、俺の頭にポンと手を置いた。

「本当は悲しいことなのに、すぐり君が無理矢理、笑い事にしようとしてるだけだよ」

「…」

そう、なんだろうか?

自覚したことがなかった。

俺は、悲しい思ったことがあるのだろうか?

「良くないよ。悲しいことや苦しいことは、ちゃんとそう言わなきゃ」

「…」

悲しいことを悲しいなんて、言ってる暇があったら。

一人、人を殺すのに使った方が、余程効果的だよ。

悲しいからって、悲しいなんて言ってる暇はなかったんだよ。

そんな無駄なことしてたら、自分の首が飛ぶ。

感情なんて、暗殺に全く必要ない。

だから、『八千代』は常に無表情に、無感情に生きていた。

対する俺は、本当は悲しいことや苦しいことがあっても、へらへら笑って、誤魔化して、生きてきたのだろうか?

『八千代』は?『八千代』はどうなんだろう。

彼もまた、同じようにしてきたのか?

いや違う。『八千代』が悲しそうにしてるところや、笑って誤魔化そうとしてるところは見たことがない。

あいつは、多分何も感じてなかったのだ。

それが、俺と『八千代』の差?

「…俺さ、きっとおかしいんだよ」

俺は、頭の上に乗せられたツキナの手を取り。

その手を、そっと押し退けた。

俺なんかが、触って良い手じゃない。

「悲しいことも苦しいことも、人にとっては泣きたくなるようなことも、俺は何も感じない。へらへら笑って、その顔の下には何も感じてない。生来の、サイコパスって奴?」

暗殺者には、持って来いの性格。

生まれながらの殺戮者。

それが、花曇すぐりという人間…。

「…ううん、そんなことはないよ」

押し退けた手を、ツキナはぐいっと戻した。

意地でも、絶対逃がさないみたいな手付きで。