神殺しのクロノスタシス3

…やがて。

鬱蒼とした木立を抜けた、その先に。

明らかに人の手によって開かれた、村が現れた。

畑も田んぼも、人が住んでいるのであろう小屋もある。

「…!ここが…」

「桔梗谷…本当に…」

桔梗谷、と言うだけあって。

周囲は、野生の桔梗の花が、あちこちに咲いていた。

だが、今は花のことなんかどうでも良い。

ここに、ベリクリーデが…。

村に、一歩足を踏み入れた瞬間。

「!誰だ!?」

畑で何やら作業していた爺さんが、俺達の侵入に気づいた。

「待ってください。我々は、聖魔騎士団の…」

「皆の者!侵入者だ!侵入者が来たぞ!」

エリュティアが説明しようとするのを、聞く気など全くないようで。

爺さんは、声を張り上げて叫んだ。

すると、小屋の中から出るわ出るわ。

あんな狭い小屋の中に、一体何人住んでいるのか。

彼らは、使い古した包丁や竹槍を武器に、小屋から出てきた。

中には、農作業用の鍬や、熊手みたいなものを武器のように持っている者もいる。

子供までもが、錆びたスコップを両手で担いで、敵意の眼差しを向けてきた。

おいおい、熱烈な歓迎だな。

「俺達に戦う意志はない!数日前ここに連れてこられたであろう、仲間を探しに来た!」

無闇が、彼らに聞こえるよう大声で言った。

「彼女を返してくれれば、すぐにここを立ち去る!村人に危害を加えるつもりはない!」

「仲間…仲間だと?」

「女と言ったな…?」

敵意剥き出しの村人達は、無闇の言葉を反芻し。

そして。

「…!こいつら!我らの生き神様を奪いに来たな!?」

…やはり。

ベリクリーデは、この土地の生き神様とやらに選ばれたのだ。

ふざけんな。

この土地に、ベリクリーデを縛り付けさせる訳にはいかない。

「皆!生き神様を守れ!武器を取って戦うのだ!」

「そうだ!不浄な奴らに、我らの生き神様を渡してなるものか!」

村人達は、それぞれの武器を手に、勇ましくわらわらと迫ってきた。

…こいつら、今何と言った?

「…ふざけんじゃねぇっ!!」

俺は、飛び掛かってくる村人達を、風魔法で吹き飛ばした。

面白いように宙を舞った村人達は、呆気なく地面に墜落していた。

「ベリクリーデは、お前らのもんじゃねぇ!!」

何が、我らの生き神様、だ。

勝手に拉致して、勝手に神様に仕立てあげただけだろうが! 

「…ジュリスさん。気持ちは分かりますが、少し抑え気味に」

「え、あ…悪い」

クュルナに小声で諌められ、ちょっと冷静になった。

そうだった。相手は、魔法の使えない一般人なんだった。

しかも奴らの武器は、精々キッチンナイフと農具程度。

「ベリクリーデさんは、この村の中にいます。ここは僕達が引き受けます。ジュリスさん、あなたが探してください」

エリュティアが、杖を握り締めて言った。 

無闇も、その背後にゆらりと現れた月読も。

クュルナも、俺を促すように頷いた。

…気を遣わせて、申し訳ない。

「…悪い。ここは頼む」

俺は、わらわらと寄ってくる村人達を飛び越えるように、宙を飛んだ。

待ってろよ、ベリクリーデ。

今、行くから。