神殺しのクロノスタシス3

「奥さん、桔梗谷って知ってますか」

「桔梗谷…?あぁ…。お兄さん、桔梗谷のことを調べに来たのかい」

俺は、咄嗟に頭を働かせた。
 
「はい、実は王都で、とある雑誌のフリーライターをしてまして…。このトラーチェに、桔梗谷という幻の村があると小耳に挟んだものです」

言うまでもなく、真っ赤な嘘だ。

本当は、こんな嘘はつきたくない。

だが、実は自分は聖魔騎士団魔導部隊大隊長の一人で、失踪した同僚を探している、なんて本当のことを言ったら。

むしろ、その方が疑われるだろう。

それどころか、こんなところに聖魔騎士が、と腰を抜かされかねない。

ならば、しがない雑誌記者の方が、信憑性があるだろう。

「あぁ、はいはい…。記者さんね、大変な仕事だねぇ」

「はは…。ありがとうございます」

本当の職業を言ったら、度肝抜かすだろうなぁ。

言わないが。

「それで、奥さん…。ご存知ですか?桔梗谷のこと」

「あぁ…。知ってるよ。山の奥にある村だろう?」

…!

…掴んだ。

「行ったことがあるんですか?」

「いいや、ないよ。あそこはねぇ…外部の人間は、一切中に入れないんだよ。谷から一歩でも出れば、そこは不浄な土地だと信じ込んでるからね」

「どんな人達が住んでるのか、聞いたことがありますか?」

「そうだねぇ…。今の若い子達に言っても、信じないだろうけどね…」

大丈夫。

俺、あなたより何百倍も歳上なんで。

「あそこの人々はね、生き神様を祀って、生き神様に頼って生きてるんだよ。あんな深い山の奥で、一族が絶えずにいはれるのは、その生き神様のお陰なのさ…」

…生き神様。

さっきの女性も言ってたな。

「生き神様…というのは、何でしょうか?」

何らかの迷信…にしては、やけに確信を持った話し方をしてるが。

「生き神様はねぇ…。桔梗谷を守る神様なのさ」

「…えぇと、もう少し具体的に言うと?」

いまいち、具体性に欠けるのだが?

「女の子だよ。少女。不思議な力を持つ、綺麗な女の子」

「…!」

それって…。

「他の土地じゃあ、女の子がいなくなったら、神隠しだって言うだろ?」

「…はい…」

「ここじゃ、女の子がいなくなったら、『生き神様に選ばれた』って言うのさ。桔梗谷の人はね、生き神様なしじゃ生きられんから。生き神様が亡くなったら、次の生き神様を探しに山から降りてきて、女の子を攫ってくのさ」

「…」

「だから、あたしらが子供のときは、よく親に言われたもんだ。女の子は、日が暮れる前に家に帰らなきゃならん。でなきゃ、生き神様に選ばれちまうよ、ってね…」

…非常に。

有益な情報を得たような気がする。