…10分後。
「はい、お茶が入りましたよ」
「ありがとうございます」
「やれやれ…。よっこいしょ」
「…」
俺は、縁側に座っていたお婆さんの横で、同じく縁側に座る権利を得ていた。
おまけに、煎餅と緑茶まで振る舞われていた。
無下に追い返されなかったばかりか、予想外の歓迎を受けてしまった。
しかも、見た目はかなりのご年配だが、幸い足腰はしっかりしているようで。
動きはのろのろとゆっくりだが、杖もつかず、家の中を歩き回るほどの元気はあるようだ。
何よりである。
あとは、このお婆さんが、桔梗谷について何らかの情報を持っているか、だ。
これについては、俺も確信が持てている訳ではない。
つまり、聞いてみなきゃ分からない、ってことだな。
「…で、お兄さん…あんた、どちらから?」
先に口を開いたのは、お婆さんだった。
まずは小手調べの挨拶から、ってことだな。
「王都から」
「そうかい。遠いところから、よく遥々来たねぇ…」
それはどうも。
「奥さんは、ずっとここに?」
折角、家にまで上げてくれたのだ。
いきなり、「桔梗谷って知ってます?」は失礼極まりない。
こちらも、まずは世間話から入るべきだろう。
「そうだよ。ここで生まれて、ここで結婚して子供育てて…」
「じゃ、旦那さんもこちらに?」
「そこだよ」
お婆さんは、部屋の中に置かれた仏壇を指差した。
…あぁ、成程。
「そうでしたか…。済みません」
「もう10年も前だよ。卒中でね、ぽっくりさ」
それはご愁傷様。
「お子さん達は?」
「みーんな都会に行ったよ。孫達もね。こんな田舎にはいたくない、の一点張りさ」
「それは…寂しいですね」
田舎生まれの子供あるあるだな。
大きくなったら都会に行って、都会に住もう、と。
そして、都会で伴侶を見つけ、都会で家庭を持ち、都会に居着く。
そうしたら、もう都会の利便性に慣れてしまって、今更田舎には帰れない。
仕方ないことなのかもしれないが、取り残されたこのお婆さんのような人のことを思うと、切ない。
「良いんだよ。そういうもんさ。たまに、孫の夏休みには顔を出しに来るし。それだけで充分さ」
しかし、このお婆さんは、そういうものだと割り切っているようで。
これだから最近の若者は、などと、嫌味なことを言うタイプのお年寄りではなかった。
俺より遥かに年下なのに、しっかりした考えをお持ちのようで。
「それでお兄さんは、何だってまたこんな田舎に来たんだい?」
「あ…はい」
前座は、このくらいにして。
そろそろ、本題に移ろう。
「はい、お茶が入りましたよ」
「ありがとうございます」
「やれやれ…。よっこいしょ」
「…」
俺は、縁側に座っていたお婆さんの横で、同じく縁側に座る権利を得ていた。
おまけに、煎餅と緑茶まで振る舞われていた。
無下に追い返されなかったばかりか、予想外の歓迎を受けてしまった。
しかも、見た目はかなりのご年配だが、幸い足腰はしっかりしているようで。
動きはのろのろとゆっくりだが、杖もつかず、家の中を歩き回るほどの元気はあるようだ。
何よりである。
あとは、このお婆さんが、桔梗谷について何らかの情報を持っているか、だ。
これについては、俺も確信が持てている訳ではない。
つまり、聞いてみなきゃ分からない、ってことだな。
「…で、お兄さん…あんた、どちらから?」
先に口を開いたのは、お婆さんだった。
まずは小手調べの挨拶から、ってことだな。
「王都から」
「そうかい。遠いところから、よく遥々来たねぇ…」
それはどうも。
「奥さんは、ずっとここに?」
折角、家にまで上げてくれたのだ。
いきなり、「桔梗谷って知ってます?」は失礼極まりない。
こちらも、まずは世間話から入るべきだろう。
「そうだよ。ここで生まれて、ここで結婚して子供育てて…」
「じゃ、旦那さんもこちらに?」
「そこだよ」
お婆さんは、部屋の中に置かれた仏壇を指差した。
…あぁ、成程。
「そうでしたか…。済みません」
「もう10年も前だよ。卒中でね、ぽっくりさ」
それはご愁傷様。
「お子さん達は?」
「みーんな都会に行ったよ。孫達もね。こんな田舎にはいたくない、の一点張りさ」
「それは…寂しいですね」
田舎生まれの子供あるあるだな。
大きくなったら都会に行って、都会に住もう、と。
そして、都会で伴侶を見つけ、都会で家庭を持ち、都会に居着く。
そうしたら、もう都会の利便性に慣れてしまって、今更田舎には帰れない。
仕方ないことなのかもしれないが、取り残されたこのお婆さんのような人のことを思うと、切ない。
「良いんだよ。そういうもんさ。たまに、孫の夏休みには顔を出しに来るし。それだけで充分さ」
しかし、このお婆さんは、そういうものだと割り切っているようで。
これだから最近の若者は、などと、嫌味なことを言うタイプのお年寄りではなかった。
俺より遥かに年下なのに、しっかりした考えをお持ちのようで。
「それでお兄さんは、何だってまたこんな田舎に来たんだい?」
「あ…はい」
前座は、このくらいにして。
そろそろ、本題に移ろう。


