神殺しのクロノスタシス3

…10分後。

「はい、お茶が入りましたよ」

「ありがとうございます」

「やれやれ…。よっこいしょ」

「…」

俺は、縁側に座っていたお婆さんの横で、同じく縁側に座る権利を得ていた。

おまけに、煎餅と緑茶まで振る舞われていた。

無下に追い返されなかったばかりか、予想外の歓迎を受けてしまった。

しかも、見た目はかなりのご年配だが、幸い足腰はしっかりしているようで。

動きはのろのろとゆっくりだが、杖もつかず、家の中を歩き回るほどの元気はあるようだ。

何よりである。

あとは、このお婆さんが、桔梗谷について何らかの情報を持っているか、だ。

これについては、俺も確信が持てている訳ではない。

つまり、聞いてみなきゃ分からない、ってことだな。

「…で、お兄さん…あんた、どちらから?」
 
先に口を開いたのは、お婆さんだった。

まずは小手調べの挨拶から、ってことだな。

「王都から」

「そうかい。遠いところから、よく遥々来たねぇ…」

それはどうも。

「奥さんは、ずっとここに?」

折角、家にまで上げてくれたのだ。

いきなり、「桔梗谷って知ってます?」は失礼極まりない。

こちらも、まずは世間話から入るべきだろう。

「そうだよ。ここで生まれて、ここで結婚して子供育てて…」

「じゃ、旦那さんもこちらに?」

「そこだよ」

お婆さんは、部屋の中に置かれた仏壇を指差した。

…あぁ、成程。

「そうでしたか…。済みません」

「もう10年も前だよ。卒中でね、ぽっくりさ」

それはご愁傷様。

「お子さん達は?」

「みーんな都会に行ったよ。孫達もね。こんな田舎にはいたくない、の一点張りさ」

「それは…寂しいですね」

田舎生まれの子供あるあるだな。

大きくなったら都会に行って、都会に住もう、と。

そして、都会で伴侶を見つけ、都会で家庭を持ち、都会に居着く。

そうしたら、もう都会の利便性に慣れてしまって、今更田舎には帰れない。

仕方ないことなのかもしれないが、取り残されたこのお婆さんのような人のことを思うと、切ない。

「良いんだよ。そういうもんさ。たまに、孫の夏休みには顔を出しに来るし。それだけで充分さ」

しかし、このお婆さんは、そういうものだと割り切っているようで。

これだから最近の若者は、などと、嫌味なことを言うタイプのお年寄りではなかった。

俺より遥かに年下なのに、しっかりした考えをお持ちのようで。

「それでお兄さんは、何だってまたこんな田舎に来たんだい?」

「あ…はい」

前座は、このくらいにして。

そろそろ、本題に移ろう。