暗闇の中を、慣れない痛い靴で歩かされ(勿論、足元には赤い布を敷いてある)。
靴擦れが痛くて、頭もフラフラして。
一体何処まで歩くんだろう、もう立ち止まってしまいたいと、何度も思って。
それでも歩き進んでいくと。
谷の奥から、滝の水が落ちる音がした。
「ここが、桔梗谷の霊験あらたかな水流。この滝に打たれれば、生き神様の穢れも祓えましょう」
「…」
松明の灯りで、足元は照らされているが。
真っ暗闇のせいで、水は真っ黒く、不気味に見えた。
…まるで、地獄に誘っているかのようだ。
「この滝の水は神聖ですから、履物を履かなくても良いんですよ」
お姉さんが跪いて、私の足から、あの痛い靴を脱がしてくれた。
ようやくあの靴から解放された私の足は、つま先に血が滲んでいた。
「さぁ、どうぞ滝の中に」
「…」
私は、恐る恐る、水の中に足を浸けた。
靴擦れに水がしみる、と言うより。
あまりの水の冷たさに、鋭い痛みを覚えた。
まだ9月なのに、夜とはいえ、何でこんなに水が冷たいの?
「冷たい…」
「我慢なさいませ。この水が、生き神様の穢れを祓ってくれましょう」
「…」
この冷たい水が、私に何をしてくれるの?
そう思ったが、口には出さなかった。
それをわざわざ口に出す、その労力が惜しかった。
私は、そろそろと両足を水に浸け、冷たい水の中を歩いていった。
全身に巻きつけられた、ただでさえ重い布が水を含み。
更に重く、一歩歩くごとに、水が深くなるごとに、身体が重くなっていく。
濡れた布が身体にまとわりついて、気持ち悪い。
脱いでしまいたいが、それをする労力も惜しかった。
水の底には、ゴツゴツとした石が敷き詰められていて。
気をつけて歩かないと、石の尖った部分を踏み抜いてしまいそうだった。
でも、暗くて足元が見えないから、足元を気をつけることも出来ない。
案の定、滝の下に辿り着くまでに、水底の石か何かを踏み抜いて、何度も鋭い痛みに襲われた。
それでも何とか、滝の下に辿り着いた。
高さが、何メートルあるのか分からないけど。
高いところから、勢いよく、容赦なく叩きつけてくる水の下に立つと。
冷たいとか寒いとかを通り越して、酷く痛い。
あまりの水圧に、身体をぺしゃんこにされてしまいそうだった。
痛い。寒い。冷たい。真っ暗闇で怖い。
まるで、収容所にいた頃のようだ。
ありとあらゆる惨めな気持ちは、あの収容所で体験した。
でも何故だろう。
今は違う。あのときとは。
あのときは何の希望も展望もなくて、ただ無為に毎日を生きていた。
守るものも、失うものもなかった。
あそこ以外に、収容所以外に、自分の居場所を知らなかった。
でも今は違う。
あんな場所より、この桔梗谷よりも、ずっと居心地の良い場所を知ってしまった。
だから、余計に辛いと思ってしまう。
何で私、こんなところにいなきゃならないんだろう。
帰りたい。
あぁ、待って。でも駄目なんだ。
これは、女王様からの命令なんだから。
ねぇ、ジュリス。見てる?
見えてないと思うけど。
私、こんなに頑張ってるよ。ジュリスがいなくても、私はちゃんと頑張れる。
ちゃんと、どんな辛いことも…耐えてみせるから。
そう思った、瞬間。
目の前が真っ暗になり、私は自分の体が、ゆっくりと前のめりに倒れるのを感じた。
靴擦れが痛くて、頭もフラフラして。
一体何処まで歩くんだろう、もう立ち止まってしまいたいと、何度も思って。
それでも歩き進んでいくと。
谷の奥から、滝の水が落ちる音がした。
「ここが、桔梗谷の霊験あらたかな水流。この滝に打たれれば、生き神様の穢れも祓えましょう」
「…」
松明の灯りで、足元は照らされているが。
真っ暗闇のせいで、水は真っ黒く、不気味に見えた。
…まるで、地獄に誘っているかのようだ。
「この滝の水は神聖ですから、履物を履かなくても良いんですよ」
お姉さんが跪いて、私の足から、あの痛い靴を脱がしてくれた。
ようやくあの靴から解放された私の足は、つま先に血が滲んでいた。
「さぁ、どうぞ滝の中に」
「…」
私は、恐る恐る、水の中に足を浸けた。
靴擦れに水がしみる、と言うより。
あまりの水の冷たさに、鋭い痛みを覚えた。
まだ9月なのに、夜とはいえ、何でこんなに水が冷たいの?
「冷たい…」
「我慢なさいませ。この水が、生き神様の穢れを祓ってくれましょう」
「…」
この冷たい水が、私に何をしてくれるの?
そう思ったが、口には出さなかった。
それをわざわざ口に出す、その労力が惜しかった。
私は、そろそろと両足を水に浸け、冷たい水の中を歩いていった。
全身に巻きつけられた、ただでさえ重い布が水を含み。
更に重く、一歩歩くごとに、水が深くなるごとに、身体が重くなっていく。
濡れた布が身体にまとわりついて、気持ち悪い。
脱いでしまいたいが、それをする労力も惜しかった。
水の底には、ゴツゴツとした石が敷き詰められていて。
気をつけて歩かないと、石の尖った部分を踏み抜いてしまいそうだった。
でも、暗くて足元が見えないから、足元を気をつけることも出来ない。
案の定、滝の下に辿り着くまでに、水底の石か何かを踏み抜いて、何度も鋭い痛みに襲われた。
それでも何とか、滝の下に辿り着いた。
高さが、何メートルあるのか分からないけど。
高いところから、勢いよく、容赦なく叩きつけてくる水の下に立つと。
冷たいとか寒いとかを通り越して、酷く痛い。
あまりの水圧に、身体をぺしゃんこにされてしまいそうだった。
痛い。寒い。冷たい。真っ暗闇で怖い。
まるで、収容所にいた頃のようだ。
ありとあらゆる惨めな気持ちは、あの収容所で体験した。
でも何故だろう。
今は違う。あのときとは。
あのときは何の希望も展望もなくて、ただ無為に毎日を生きていた。
守るものも、失うものもなかった。
あそこ以外に、収容所以外に、自分の居場所を知らなかった。
でも今は違う。
あんな場所より、この桔梗谷よりも、ずっと居心地の良い場所を知ってしまった。
だから、余計に辛いと思ってしまう。
何で私、こんなところにいなきゃならないんだろう。
帰りたい。
あぁ、待って。でも駄目なんだ。
これは、女王様からの命令なんだから。
ねぇ、ジュリス。見てる?
見えてないと思うけど。
私、こんなに頑張ってるよ。ジュリスがいなくても、私はちゃんと頑張れる。
ちゃんと、どんな辛いことも…耐えてみせるから。
そう思った、瞬間。
目の前が真っ暗になり、私は自分の体が、ゆっくりと前のめりに倒れるのを感じた。


