神殺しのクロノスタシス3

その日の翌日、と言うか。

日付が変わる頃、私は例のお婆さんに起こされた。

空に月が昇り、「神聖なる時間」が来るのを待っていたそうだ。

そして、また動きにくい例の服を着せられ。

連れていかれた先には、松明の灯った小屋。

小屋の中には、黒いシーツをかけた、寝台のようなものと。

大きなたらいが、床に置かれていた。

そして、先程見た赤い宝石付きのナイフも。

…?

「さぁ、生き神様、こちらへ」

私は、お婆さんの手を借りて(誰かの手を借りなきゃ、歩きにくくて転けそう)、寝台に導かれた。

そこに寝かされ、私は何人かの人々に囲まれた。

…これから、手術される人みたい。

「私、何されるの…?」

手術?手術なの?

「生き神様の身体から、不浄な血を抜くのです」

本当に手術だった。

「血?血を抜かれるの?」

「そうです。神聖であるはずの生き神様の血を捧げても、水晶玉には何も映らなかった…。それはつまり、生き神様の血が穢れているからなのです」

そうなんだ。

私の血、汚いの? 

「それも仕方のないこと。生き神様はこれまで、この神聖な谷ではなく、穢れた土地で、穢れた人々と接し、穢れた食物を口にしてこられたのですから」

「…」

「生き神様を清める為には、まず身体の中の不浄な血を洗い流し、谷の澄んだ空気によって浄化しなくてはなりません。その為に…」

「…穢れてなんかないよ?」

「は?」

私は、神様としては、穢れてるのかもしれないけど。

でも。

「王都も、王都にいた人も、穢れた人なんていなかったよ」

ジュリスも、皆も、良い人ばかりだった。

皆、こんな厄介な私に、優しくしてくれたよ。

ジュリスだって、美味しいクレープや、美味しいチョコレートを食べさせてくれたよ。

あれは決して、穢れたものなんかじゃなかった。

それなのに。

谷の人々は、私の言葉に戦慄し、お婆さんは肩を戦慄かせていた。

「な、なんということ…!生き神様が、桔梗谷以外の場所を穢れていないなどと…!やはり、生き神様の中には不浄なものが巣食っているのですね」

「…」

私の中にいるのは聖なる神様だから、別に不浄ではないと思うけど。

しかし、お婆さんは。

「今すぐ、今すぐ生き神様の穢されてしまった魂を、浄化してさしあげるのだ。すぐに」

「は」

私の周りを取り囲んでいたお姉さんや、お兄さん達が。

私の両手首を取り、そして細い鋭利なナイフを手にした。

「生き神様よ、どうか穢れを祓い、我らの生き神様に戻ってくださいませ」

そう言うなり、私の両手首に、鋭い痛みが走った。

あろうことか、あのナイフで、思いっきり引き裂いたのだ。

「痛い…」

死なないけど。このくらいでは、私は死なないけど。

でも、痛いものは痛い。

ボタボタと流れる血が、たらいの中に溜まっていった。

あのたらいは、この為にあったのだ。

凄く痛い。

でもしばらくすると、私の身体が勝手に再生を始めた。

傷は塞がり、血は止まった。

けれど。

「まだまだ。こんなものでは、穢されてしまった血は洗い流せませぬ」

お婆さんの指示で、再び手首を切られる。

折角治ったのに。

またしても、鋭い痛みと共に、生温かい液体がボタボタと流れ出した。

また痛い。

こんな風にして。

私は、傷が治る度に切られ、また傷が治る度に切られを繰り返された。

それは、神聖なる儀式と言うよりは、拷問を受けているかのようだった。