神殺しのクロノスタシス3

鋭い痛みと共に、やがて、ワイングラス…聖杯が、私の赤い血で満たされた。

覚悟はしてたけど、やっぱり痛いものは痛い。

グラスがいっぱいになると、付き従っていたお姉さんが、血を垂らす私の手首を、赤い布で巻いてくれた。

ありがとう。

…それで?

「…何すれば良いんだっけ?」

「水晶を。水晶玉を覗いてくだされ」

水晶玉?

ワイングラスの隣りにある、透明な玉。

これが水晶玉…。

「これを見ると、どうなるの?」

「生き神様の神聖なる血を捧げたことにより、神の力を得た生き神様は、その水晶玉を通して、この世の真理を見ることが出来るでしょう」

「ふーん…。なんか、中二病みたいだね」

「ち、ちゅうに…?何ですかそれは」

中二病知らないの?

「と、とにかく水晶玉を。水晶玉を覗きください」

「分かった」

じー、と水晶玉を見つめる。

…。

…。

…透明だなー…。

私の顔が映って、落書きされたみたいな変な顔に、思わず笑いそうになる。

「…どうですか、生き神様。我らの未来が見え…」

「控えよ!生き神様の神聖なる儀式を、邪魔するでない!」

「も、申し訳ございません」

お姉さんが、興奮した調子で私に尋ねると。

お婆さんがそれを制し、叱声を飛ばした。

…。

静かにしてくれて、ありがとうなんだけど。

透明な水晶玉に映るのは、間抜けな落書きが施された私の顔だけ。

…これを見て、私の顔以外の何かが分かるんだろうか。

とりあえず、自分の変な顔と五分くらい見つめ合っていると。

お婆さんが、恐る恐ると言った風に声をかけてきた。

「…生き神様。何が見えましたでしょうか」

「…私の顔」

「は」

はって何?

「私の顔以外、何も見えないよ」

「え、い、いや…。谷の…そう、桔梗谷に住む我々の未来は?今年の冬は、無事に越せますでしょうか。病に罹っている村長の三男は?いつ治るのですか?」

「…さぁ…」

そんなこと、私に聞かれても。

私、占い師じゃないんだから。

この人達が期待していることなんて、なーんにも見えない。

こんな水晶玉、ただの、丸い透明な玉でしかない。