神殺しのクロノスタシス3

この村の小屋は、どれも土の壁、土の床だったけれど。

祭壇のあるこの小屋は、他の小屋とは違っていた。

他の小屋よりも大きく、壁にも床にも、赤い布が垂らされ。

祭壇には、白い布が敷かれ、その上に、何かよく分からない動物の骨が置かれていた。

…あれ、何の動物の骨だろう。

人間じゃないのは確かだ。

そして、その骨の前には。

豪奢な布の上に、堂々と鎮座する透明な水晶玉と。

黄金で出来た、ワイングラスに似た杯のようなものが置いてあった。

…何かの儀式をするみたいな部屋だ。

実際、何かの儀式をする為に、連れてこられたんだろうし。

私、ここで何をすれば…。

と、思っていたら。

私が尋ねるまでもなく、お婆さんの方から、非常に簡単で、そして非常に難しい指示を受けた。

「さぁ、生き神様。あの聖杯に生き神様の血を満たし、水晶玉を覗きください」

…??

お婆さん、今何て?

「これをお使いください」

別の女の人が、私に何かを差し出した。

何だろうと思ったら、それは赤い宝石がついた、鋭利な細いナイフだった。

え。物騒。何これ。

「な、何すれば良いの?」

「それでご自身の手首を切り、神聖なる生き神様の血で、聖杯を満たしてくださいませ」

「…!」

要するに。

私はこのナイフで自分の手首を切り。

その血でこの、ワイングラスみたいなのをいっぱいにしなければならないのか?

…。

…。

「…やだ」

「!?」

「やだ、そんな痛いことしたくない」

血を一滴、くらいならまだ分かるけど。

いや、それだってチクッとして、嫌だ。

それなのに、この聖杯?っていうグラスをいっぱいにしようと思ったら。

かなりグサッと刺して、蛇口みたいに血がボタボタ流れる状態にしないといけないんだろう?

そんなの嫌だ。痛いもん。

しかもそれを、自分の手でやりなさい、なんて。

かつて私がいた収容所じゃないんだから。

そういう、痛いことや嫌なことを強制されるのは、もうまっぴらだ。

と言うか、誰だってそうじゃないか?

私は魔導師だから、身体を切っても、血を流しても、いずれ再生するけれど。

でも切られるときは痛いもん。

いくら治るからって、そんなのしたくない。誰だってそう思うだろう。

ジュリスだって、嫌だって言うよきっと。

しかし、付き添いのお婆さんは。

「なんということ…!生き神様が、大切な儀式を拒否なされるなど…!」

「ば、ババ様、これは一体…」

「生き神様!ご乱心か。自身のお役目をお忘れになられたか!?」

「…?」

役目って…。

…聖なる神を、ちゃんと封印しておくこと?

それなら。

「ちゃんと覚えてるよ?」

「ならば、儀式を拒否されることはないはず!さぁ、聖杯に血を満たし、水晶玉を…」

「でも手を切るのは痛いから、やだ」

「!!」

私は、人としてごく当たり前のことを言ったつもりなのだが。

お婆さんも、付き添いのお姉さんも、信じられないような目で私を見ていた。

…何で?