神殺しのクロノスタシス3

…見ていられない。

いくらアトラスがアナベルを責め立てようと、それは、その罪は、アナベルが背負うべきものではない。

アトラスの制止を受けようが、俺も一緒に裁かれようが、関係ない。

やはり、割って入ろうとしたが。

そのとき。

「お前は…家族を人質に取られたんだな?」

アトラスは、そう聞いた。

「は…い…」

「王家への忠誠より、家族を優先したんだな?」

「…!」

…それは。

「…はい…」

アナベルは、死を覚悟したように頷いた。

…無理もない。

無理もない。まだ歳も若く、俺にとっては少女にも等しいアナベルが。

家族の命と、国家への忠誠心を、天秤にかけられるはずがない。

だから、アナベルは…。

「…そうか」

アトラスは、アナベルの肩に手を置いた。

アナベルは、ビクリと身体を震わせたが。

次にアトラスが放った言葉に、俺達一同、驚きを隠せなかった。

「お前は正しいことをした」

「…え?」

俺達のみならず。

アナベルもまた、涙に濡れた顔で、きょとんとしていた。

「誰だって同じことをする。家族以上に大事なものなんてない。俺だって、家族を人質に取られたら、お前と同じことをする。それで家族を守れるのなら、何だってする」

…アトラス。

「だから俺は、お前を許す。お前は国家への忠誠心より、家族の命を優先した。正しい判断だ。俺だって同じことをする。だから俺は、お前を責められない」

…そうだったな。

お前は、そういう奴だったよ。

国家への忠誠心など、知ったことか。

自分が命を懸けて愛した妻が、血を分けた愛しい子らが、命の危機に脅かされているのに。

国家への忠誠心を優先して、彼らの命を見捨ててしまったら。

アトラスはきっと、生涯決して、自分を許せないだろうから。

「フユリ様には、俺から報告する。絶対にお前と、お前の家族には危害を加えさせないようにする。咎を受けるなら、それは独断でお前を許すと決めた俺だ」

「あ…アトラス団長…」

「だからアナベル、お前は安心して、家族のもとに帰れ。お前が命を懸けて守った家族のもとに」

「…!」

…実にアトラスらしい判断だ。

アナベルは、感極まったように、再び涙を溢れさせていた。

そんなアナベルを、シュニィが背中をさすって宥めていた。

「フユリ様への報告は後だ。まずは、その桔梗谷とやらに行き、ベリクリーデを探す。それが先決だ」

やれやれ。

女王陛下への報告を後回し、とは。

やることが大胆な団長様だよ。

…そして、なんとも威厳のある団長だ。

だから、誰もが彼についていくのだ。

人間は機械ではない。

人間には感情がある。抗いがたい感情が。

人であることを捨ててまで、国家を守る必要はない。

少なくともこの団長は、人であることを捨てたりはしない。

国を守る為だけの、機械にはならない。

それを今、ここで証明してみせたのだ。

シルナ・エインリーも、安心したような顔をしていた。

…ったく、あんたの教え子は、つくづく優秀だよ。