神殺しのクロノスタシス3

泣きじゃくるアナベルの肩に手を置くと、アナベルはビクリと身体を震わせた。

だが、心配することはない。

「お前は何も悪くない。お前の家族もだ。指令書やら印鑑やら、部屋に放り出していった俺の管理が悪かったんだ」

もっとちゃんと、施錠して入れておくべきだった。

それは俺の怠慢のせいであり、断じてアナベルのせいではない。

「お前には何の責任もない。悪いのは俺だ。だから…シュニィ」

俺は、俺やアナベルを統括する、魔導部隊隊長シュニィに向かって言った。

「裁くなら、俺を裁け。アナベルの名前は出さないでくれ」

「…ジュリスさん…」

国家反逆罪の汚名も、喜んで着よう。

俺には、アナベルと違って、守るべき家族はいない。

アナベルの家族にとって、アナベルはなくてはならない存在だが。

俺の代わりなら、いくらでもいる。

だから、裁かれるのは俺だ。

すると。

「そんな…ジュリスさんが背負うことでは、」

「そうだ。指令書を偽造し、王家の名前を勝手に利用し、魔導部隊大隊長を騙した当事者は、お前ではなくアナベル・ハードウィックだ」

「…!アトラスさん…」

それまで、ずっと黙っていたアトラスが。

聖魔騎士団団長が、シュニィの言葉を遮るようにして、アナベルの前に出た。

アトラスの険しい顔つきに、アナベルは顔を引き攣らせて震えていた。

その貫禄と威圧感は、俺でさえ恐怖を感じるほどだった。

「アトラスさん、アナベルさんは何も…」

「そうだよ、彼女は脅されていただけで…」

アトラスの妻であるシュニィと。

かつて教師として彼に師事していたシルナ。

アトラスに意見出来る、数少ない二人の人間が、アトラスを宥めようとしたが。

「二人共、少し黙っていてくれ。聖魔騎士団団長は俺だ」

「…!」

そんな二人の意見にも、アトラスは全く耳を貸さなかった。

シルナはともかく、愛妻のシュニィの意見さえ聞かないとは。

シュニィは、あまりに驚いて絶句していた。

確かに国家反逆罪は重大な犯罪だ。アナベルは裁かれるべきだろう。

しかし、彼女は何も、悪意を持ってこんなことをした訳ではない。

家族を人質に取られ、身動きが取れない状況だった。

言うことを聞かなければ、抵抗する術を持たない家族を殺すと言われたのだ。

家族を守るには、桔梗谷の連中の言うことを聞くしかなかったのだ。

充分に、情状酌量の余地はある。

それなのに、情け容赦なく彼女を裁くとは。

それはあまりにも、酷というもの…。

「…アナベル」

アトラスが名前を呼ぶと、アナベルは顔を引き攣らせたまま、がくがくと震えていた。

「お前は…誓ったはずだな?聖魔騎士団に入団する際に、王家と聖魔騎士団に誠実に、忠誠を尽くすと宣誓したな?」

アトラスが言っているのは、聖魔騎士団に入団する際の入団儀式のことだ。

聖魔騎士団に入団するときは、必ずこの宣誓をさせられる。

王家に、聖魔騎士団に忠実な騎士であると宣誓する。

だが現状、アナベルはその誓いを破ったことになる。

フユリ様の名前を騙って、勝手に指令書を作成したのだから、そこは議論の余地もない。

「それなのに、お前はその誓いを破った。家族の為に。そうだな?」

「は…はい…」

アナベルの顔は、気の毒なほどに真っ青になっていた。