神殺しのクロノスタシス3

東方都市…トラーチェだって?

何だって、ベリクリーデがそんなところに?

「列車で向かったそうです。駅で、彼女の『痕跡』も見つけました」

「列車で…って、いや、そもそも何であいつが、トラーチェなんかに行ってるんだよ?」

意味が分からない。

あそこは確か…よく言えば長閑、悪く言えばド田舎の…何もない場所だろう?

何でそんなところに?

しかも、一人で?

「…まさか家出、って訳じゃないよな?」

いや、家出なら、別に良いんだけど。

誰かに攫われるよりは、ずっと良い。

「いえ、それが…少々、ややこしいことになっていて…」

…ややこしいこと?

ベリクリーデがいなくなった時点で、充分ややこしいのだが。

それ以上に面倒なことがあるのか?

「…事の発端は、彼女が偽の指令書を偽造し、ベリクリーデさんに渡したことです」

エリュティアは、アナベルを手で差してそう言った。

…何?

アナベルが?

「彼女は昨日、ジュリスさんとベリクリーデさんが、任務に出て不在の隙に、ジュリスさんの部屋に侵入し、指令書の用紙と、ジュリスさんの印鑑を盗み出し、ベリクリーデさん宛ての偽の指令書を作ったそうです」

「…!」

昨日…ってことは。

俺とベリクリーデが、線路の土砂崩れを始末しに行っていた間に、ってことだよな?

その間に、アナベルが俺の部屋に侵入し。

白紙の指令書と、俺の名前が刻まれた印鑑を盗み出して、勝手に使用し。

ベリクリーデ宛ての、偽物の指令書を作成した。

何でそんなことを…と、思っていたら。

「更に、その指令書に、フユリ様の…王家の印も偽造して捺し、女王陛下からの特命ということにして、ベリクリーデさんに渡したそうです」

更に、大きな爆弾が投下された気分だった。

何だって?フユリ様の印を偽造?

「勿論、現物ではないので…あくまで模倣したものだそうですが…。ベリクリーデさんは、それに気づかず受け取ったらしくて」

そりゃそうだろう。

元々ベリクリーデは、人を疑うということを知らない人間なんだから。

ちょっと下手くそな偽造でも、気づかず本物だと思い込むに決まってる。

だが、今はそんなことはどうでも良い。

「アナベル…。お前、自分が何をしたか分かってるのか?」

「…」

俺が問い詰めると、アナベルは引き攣ったような顔で、目を見開いた。

俺の部屋に忍び込んで、指令書やら印鑑やらを持ち出した件については…まぁ、俺の管理が悪かったということで、庇ってもやれる。

だが。

フユリ様の印を偽造したのは駄目だ。俺の権限じゃ、庇いようがない。

つまり、フユリ様のフリをして、勝手にフユリ様の名前を利用した、ってことだからな。

これは重大な犯罪行為だ。

いくら俺達が庇っても、王家や国民は許さない。

国家反逆罪として、彼女は裁かれることになる。

事の重大さを、アナベルは理解しているのか?

「何で、そんな…馬鹿なことを…」

「ジュリスさん、彼女を責めないであげてください」

…エリュティア。

それ、さっきも言ったな。

更に、俺に責め立てられて、怯えて泣きじゃくるアナベル。

「…何があった?」

「脅されていたんです。彼女…アナベルさんは、家族を人質に取られ、脅されて、こんなことをしたんです」

…。

…あまりに唐突に、事態が急変して。

さすがの俺も、頭がついていかないぞ。