神殺しのクロノスタシス3

…?誰だろう。ジュリス?

いや、違う。

時刻は、既に午後10時を回っている。

以前午後9時頃、報告書出来たから取りに来てーと言ったら、「そんな時間に女性隊舎に行けるか」と怒られたことがあるから。

何でこんな時間だったら、ジュリスが来ちゃ駄目なのか分からないけど。

とにかく、だから多分ジュリスじゃない。

「誰?」

部屋の扉を開けると、そこには予想通り、ジュリスじゃなくて。

一人の若い女性魔導師が、白い封筒を持って立っていた。

あ、この人。

ジュリスの隊の人だ。

袖に巻いてる腕章の色で、どの大隊に所属する魔導師なのか判別出来る。

「あ、あの…夜分に失礼します。私、ジュリス大隊長の使いで、アナベル・ハードウィックと言います」

「…私に、何か用?」

「は、はい。ジュリス大隊長から、これを渡すようにと…」

アナベル・ハードウィックは、手に持っていた白い封筒を差し出してきた。

…?お手紙?

中を開けてみると、それはいつも、任務を申し付けられるときの指令書だった。

しかし、その指令書は、いつものものとは違っていた。

「これって…」

「は、はい…。あの…フユリ・スイレン女王陛下からの、特命です」

…それって。

もしかして、かなり凄いことなのでは?

いつもの任務は、大抵魔導部隊隊長のシュニィから任命される。

今日の、線路お掃除任務もそうだった。

だけど、これは違う。

ルーデュニア聖王国王家の紋章が捺されている。

指令書にこの紋章が捺されているときは、つまり、女王陛下直々の特命を意味する。

こんな重要な指令書、初めて見た。

少なくとも、私みたいな悪い子に、こんな大事な指令書が回ってくるなんて、思ってもみなかった。

…それにしても。

「…私、一人で行くの?」

「えっ…。は、はい…そう…ですね」

私、一人…。単独の任務…。

…そんなの初めてだ。

「じゃあ、何でジュリスのところからお使いに来たの?これ、ジュリスの印も捺してあるけど…」

「あ、え、えぇと…。その、ジュリス大隊長は、この度の任務には同行しないとのことで…。あなたに委任するという形で…」

…そうなんだ。

もしかしたら、ジュリスはもう、私との任務は御免だと思ったのかも。

だから、判子だけついて、私に一人で行ってこい、って言ってるのかも。

…もうお前の面倒見るのはたくさんだって、ジュリス言ってたもんな。

…。

「そ、そういうことですから…。今回は、ベリクリーデ大隊長お一人で…。緊急の特命なので、誰にも他言無用、すぐにでも出発を…」

「…分かった」

私は、指令書を握り締めた。

そこには、ただちに東方都市トラーチェに向かうようにと書かれていた。

詳しい任務の詳細は、そこで伝えられる、と。

特命と言うからには、ギリギリまで内緒にしておきたいんだろう。きっと。

女王様の考えることは、私には分からない。

とにかく、行けば分かるということだ。

「すぐに出発するね」

「は、はい…。お願いします…」

アナベルは、私に指令書を渡し、一礼して。

そそくさと、まるで逃げるように去っていった。

そして、私も。

…この時間なら、まだトラーチェに向かう列車の最終便に間に合う。

すぐ行け、ってことだったし…。今すぐ動いた方が良いんだろう。

私は、誰に告げることもなく。

簡単に荷物をまとめ、こっそりと魔導部隊の隊舎を後にした。