「あー…。こりゃ酷いもんだなぁ」

「現場」を見て、俺は思わずそう言った。

そして。

「そうなんです…」

自分の責任でもないのに、申し訳無さそうに身を縮ませる駅長さん。

いや、あんたのせいじゃあないから、心配するな。

あんたを責めた訳じゃない。

「わー。凄いね。土砂が、どっしゃーって…。あっ、今凄い駄洒落みたいになった。どっしゃーって、土砂がどっしゃーって」

「あーはいはい、面白いなー」

俺が責めたいのは、むしろこの、超絶不謹慎な同行者。

言うまでもないが、ベリクリーデである。

全く、何だって俺は、こいつ専属のボディーガードみたいになってるんだか。

シュニィよ、切実に、役割交代してくれんかね。

無理か。あそこは今、赤ん坊生まれて大変なんだっけ。

じゃ、俺が面倒見るしかないな。

ますます、溜め息つきそうになる。

…で。

ベリクリーデが、さっき言った言葉。

土砂がどっしゃー、とか言ってたが。

あれは、あながち間違いではない。

俺達が今いるここは、列車の線路。

その線路が、まるで覆い尽くすように、山の斜面から崩れた土砂に埋もれている。

当然、これじゃあ列車は通れない。

原因は、昨日の夜、ここ一帯を通り過ぎていった、傍迷惑な台風にある。

あの台風は、大量の雨と風を撒き散らして、今朝にはもう去っていった。

たった一晩で、大したことしてくれたもんだ。

あの大雨と風のお陰で、この見事な土砂崩れが発生。

土砂が線路を埋め尽くし、現在列車は運行見合わせ。

しかもこの列車、運の悪いことに、王都セレーナに向かう直通便なのだ。

そのせいで、大勢の地方都市の市民達に、多大な影響を及ぼしている。

他に移動手段を持つ者は、それぞれ別の手段で移動してるだろうが。

大半の人間は、この列車で移動するしかない。

従って、早いところ復旧してもらわないと、王都の人間も、地方の人間も、非常に困ることになるのだ。

しかし、今回の土砂崩れ。

あの台風が、散々好き勝手暴れてくれたらしく。

一日二日どころじゃ、とてもじゃないが撤去出来ないほど大量の土砂が、路面を埋め尽くしている。

この様子じゃ、下の線路もぶっ壊れてるだろうな。

幸い、線路沿いの電柱や架線には、大きな影響はないが。

線路が潰れてるんじゃ、列車は走らない。

これを復旧するには、早くても二週間。

その間、大勢の人が王都に行くことも帰ることも出来ず、指を咥えていることしか出来ない。

そこで、こんな非常時の為に、俺達聖魔騎士団にお呼びがかかった。

速急に王都から地方へ、また地方から王都への移動が必要な者には、国が高速バスを手配した。

それで一応、最低限の人間の移動は確保されたが。

残念ながらバスの本数は限られており、必要最低限の人間しか利用出来ない。

故に、地方から王都に通勤しているサラリーマンや、王都の学校に通っている学生などは、全く身動きが取れない状態なのだ。

一日二日ならともかく、二週間以上ともなると、生活に大きな影響が出る。

そこで、今回俺達聖魔騎士団魔導部隊が派遣された。

おいおい、聖魔騎士団ってそんなことまですんのかよ、と思われたかもしれないが。

まぁ、あれだ。

聖魔騎士団は、国を守る軍隊の役割を果たすと同時に。

国内の便利屋さん的な存在でもあるからな。

ルーデュニア聖王国の何処かに有事があれば、何処であれ駆けつける。

それがお仕事なのだ。