トリュフチョコとチョコマフィンを、紅茶と共に美味しくいただいた後。

最後の後片付けは、俺が担当した。

ベリクリーデは指火傷してるし。

何よりさっき、洗剤ぶちまけられたし。

もう二度と、俺はベリクリーデに皿洗いはさせない。

ので、ベリクリーデは後ろで待機だ。

すると。

「美味しかったね、ジュリス」

ご機嫌なベリクリーデが、声をかけてきた。

もう、それ何回目だ?

「あぁ、美味かったな」

このやり取り、もう30回はやってる。

食べながらもずっとだったからな。美味しいね美味しいねって、ずーっと言ってた。

昔、収容所にいたとか言ってたからな。

こんなもの、食べたことなかったんだろう。

「ねぇ、ジュリス」

「何だ?」

また、美味しかったね、か?31回目の。

しかし。

「ジュリスは、何でも出来て、凄いね」

…。

違ってた。

「何だよ、いきなり」

「こんな美味しいチョコレートの作り方知ってたり、火傷の手当も出来るし、回復魔法も使えるし」

「あぁ…」

昔は、そんなこと言われなかったのにな。

今になって、よく言われるようになったよ。

「年の功って奴だよ。長く生きてりゃ、大抵のことは出来るようになる」

何の因果かどういう運命なのか。

こんなに長く、生きながらえてしまったもんだからな。

これだけ長く生きてれば、そりゃあ出来ることも増えるし、無駄な知識も必要な知識も、色々頭に入ってくる。

別に、俺が特別だからって訳じゃない。

「じゃあ、私も長生きしてたら、ジュリスみたいになれるかな?」

「…」

…。

…現時点で、この有り様だからな。

お前が今の俺みたいになるには、多分。

俺が生きてきた年月の、軽く2倍は生きなきゃならないだろうな。

「何で黙るの?」

「あ、いや…。そうだな、なれるよ」

人間は、可能性の塊だからな。

今はこんなベリクリーデでも、数千年もたてば、もっと頼り甲斐のある魔導師に…。

…なる、のか?

いまいち確信が持てないのが、辛いところだが。

しかし。

「お前も長生きしろ。長生きしてたら、人間、嫌でも成長してるもんだ」

「そっか。ジュリスみたいになれるなら…私、頑張って長生きするね」

「あぁ、そうしろ」

せめて、数千年後には。

調理室で異臭騒ぎを起こしたり、食器用洗剤ひっくり返したりしないくらいは…成長しててくれよ?